球磨焼酎とは? 伝統の米焼酎をご紹介します
米焼酎といえば、球磨(くま)焼酎が有名。
今では、全国のコンビニや酒屋でも見かける、球磨焼酎のトップブランドも。
そんな球磨焼酎ですが、日本の焼酎造りの端緒と言われるような、
長い歴史があります。
そんな球磨焼酎をご紹介したいと思います。
目次
球磨焼酎の歴史の背景
球磨焼酎の郷である人吉は、かつては藤原氏の流れをくむ相良氏の城下町でした。
相良氏は、人吉へ入国した室町時代から明治の廃藩置県まで約700年間、この地を統治。江戸時代においては国替えが一度も行なわれなかった例は、全国の大名の中でも極めて珍しいことだったようです。
それは、現在に至るまで大きな影響を及ぼすことになり、焼酎においても同様です。
ここで、人吉の有名な逸話をご紹介します。
江戸時代の話。
幕府の役人たちが、相良藩の検地にやってきます。
人吉というエリアは、今でこそ道路が整備され、鉄道においても熊本から1時間半たらずで通じていますが、昔はかなりの難路。
さらに、人吉の先には、山々に囲まれた盆地があり、無数の稲田が広がります。
壇ノ浦の戦いで敗れた平家の落人が、隠れ住んだ伝説の土地といわれるほどに、秘境ともいえるエリアなのです。
幕府から派遣された役人たちは、その果てしのない難路の中、人吉にやっとの思いでたどりつきます。しかし、たどりつくのが精一杯。
秘境の先に広がる無数の稲田を、確認することもなく帰ったようです。
よって、相良藩の石高は表向きには、2万2 000石でしたが,秘境にある役人が確認できなかった稲田の収穫を合わせると、10万石!
実質は、相良藩は豊かな藩だったといわれています。
球磨焼酎の歴史の背景は、この稲田が恵む豊かな米と、それに紐付けされた経済力、そして四方を山にかこまれた交通の不便さのための閉鎖性があった、といえるのかもしれません。
球磨焼酎が伝統を守り続けられる理由
人吉・球磨エリアには現在、27の酒藏があります。
球磨川に沿って、一勝地から上流の水上村まで分布していますが、特に広いともいえない大きさです。
ところで、このエリアにおける蒸留技術の伝来について、諸説あります。
結論から言いますと、いずれの説も確証する資料はない。
朝鮮出兵の際、これに参加した当時の藩主である相良長安が伝えたという朝鮮渡来説、室町時代より琉球と交易していたことからとする琉球渡来説、または南蛮人の宜教師がもたらしたという説、など。
ただ、注目したいのは、焼酎造りが他エリアとは違い、独自ルートで伝来したという可能性がある事です。
それは、酒造りにおいて、清酒ではない米焼酎の、独自発展する上で大切なこと。
また、前述の通り、秘境の先に広がる無数の稲田は、豊富な米をもたらします。
深刻な米不足に見舞われるとはなく、常に酒米供給は安定。
稲作不毛の鹿児島が、焼酎原料をサツマイモが代用したような事態は発生することはなかったのです。
今に至って27の酒藏が、それぞれの伝統を守り続けられるのは、以上のような理由があったから、なのかもしれません。
米焼酎といえば球磨焼酎
球磨焼酎が徐々に知られるようになったのは、明治の中頃。
泡盛や鹿児島の芋焼酎に対し、純米酒としての質、芳醇な香りなどが買われたものと考えられます。
また、当時は、米焼酎以外にも清酒も製造されていました。
それが、白麹の発見、黒瀬杜氏の北上によって焼酎の酒質が大幅に改善したのを境に、現在のように米焼酎造りがメインになった、といわれています。
以降、米焼酎といえば、球磨焼酎といわれるような発展が続くことになります。
球磨焼酎の味わいは?
焼酎全体が全国区になると、米焼酎は最もすっきりと飲み口があるとして、人気を博します。
もともとお酒といえば、米が原料の清酒であったことも理由の一つ。
焼酎を敬遠しがちな日本酒ファンや、焼酎ビギナーに受け入れられたのです。
日本酒の純米酒のような華やかで爽やかな香りは馴染みのあるもので、味わいも上品で、日本酒のような甘さを感じることがなく、軽快。
また、和食、特に塩辛い肴にはとの相性もよいのが特徴です。
球磨焼酎の全国的なヒット
1980年代に球磨焼酎は減圧蒸溜を導入します。
減圧蒸留法で蒸留すると、酒質が軽いタイプのまろやかな味になり、当時のソフ卜化傾向の嗜好性とマッチ。
焼酎を飲んだことのなかった若い人や女性層の掘り起こしに成功し、1980年代に「白岳しろ」、続いて90年代に「白水」がヒットします。
そして、1995年(平成7年)に当時の球磨焼酎を揺るがすニューブランドが登場。
それが「吟香 鳥飼(ぎんこう とりかい)」です。
球磨焼酎「吟香 鳥飼(ぎんこう とりかい)」の空前のヒット
「吟香 鳥飼」は、焼酎では絶対に味わうことができないといわれた吟醸香を出すことに成功するのです。
成功に要した年月は10年!
「吟香鳥飼」の登場は、「百年の孤独」が”琥珀色”マーケットに戦いの場を移したのと同様、”日本酒吟醸酒”マーケットに戦いの場を移した、焼酎業界全体の画期的なイノベーションだったのです。
【吟香 鳥飼(ぎんこう とりかい)】
清酒づくりに使用する黄麹と、吟醸用の自家培養酵母を使用。
山田錦を50〜60%に精米したもので仕込んでいます。
香りは華やかで強く、清酒の吟醸酒を思わせます。
ミネラル香を感じ、余韻が長いのが日本酒とは違って心地よい。
飲み方は冷やしてストレートがオススメ。
ロックだと、氷が溶けて薄まってしまうので要注意。
〈銘柄データ〉
吟香 鳥飼(ぎんこう とりかい)
鳥飼酒造/熊本県人吉市七日町2
主原料/米(山田錦)
麹/黄麹(米)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留
「十四代」との違いは?
米焼酎は球磨地方だけでなく、もちろん人吉・球磨地方が属する九州のほか、日本全国で造られています。
「十四代」のように清酒蔵で造られる、日本酒に近い酒質の焼酎もあります。
ただ、大きな違いがあります。
それは、球磨焼酎は原料である米を醪から使用するのに対して、「十四代」のように日本酒蔵で造られる焼酎は、清酒造りで使用した粕を使用しているのです。
一般的に、
球磨焼酎などの米焼酎=「醪取り焼酎(もろみどりしょうちゅう)」
「十四代」などの日本酒蔵で造られる焼酎=「粕取り焼酎(かすとりしょうちゅう)」
と呼ばれています。
まとめ
球磨焼酎は歴史に裏付けされた、伝統の米焼酎なのでした。
親しみやすい米の香り。
どこかホッとします。
今夜はみなさん、球磨焼酎を楽しんでみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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