本格焼酎は、サツマイモや麦、米だけでなく、そばや黒糖など、実に多様な原料から造ることができるお酒。
その理由には、仕込み方法の開発が関わっているのです。
この記事では、多様な原料で焼酎が作られるようになった、仕込みとその役割をわかりやすく解説します。
風土と原料が酒造りの方法を決める
お酒は、その土地の農産物を原料として生まれ、地域の風土の影響を受けながら発展してきました。
たとえば、ウイスキーやビールは発芽した大麦を原料とする製法に適し、ワインやブランデーはブドウ、そして日本酒は米を原料とする醸造法によって発展しています。
このように、酒造りの方法は原料と密接に結びついています。
しかし、本格焼酎は少し事情が異なります。
本格焼酎の原料は非常に幅広く、大麦、サツマイモ、米、そばなどのでんぷん質原料に加え、カボチャやニンジン、トマトなどの野菜類、さらには黒糖や海藻、お茶など多様な素材が使われています。
これほど多様な原料を用いながら、基本的な製造方法は共通しています。
この点は、特定の原料に最適化された製法を持つ他のお酒と比べると、非常に特徴的な点といえるでしょう。
では、なぜ焼酎はこのように幅広い原料に対応できるのでしょうか。
焼酎造りの核心「二次仕込み」
その秘密は、ズバリ、焼酎独自の製造方法である二次仕込み(にじしこみ)にあります。
伝統的に焼酎造りは、温暖な鹿児島県や宮崎県といった南九州が盛ん。
このような温暖な地域で行われる焼酎造りは、古くから腐造(発酵中の腐敗)との戦いでもありました。
焼酎は蒸留酒のため、蒸留後に腐敗することはありませんが、発酵段階で品質が損なわれると、質の良い焼酎は生まれません。
ところで、一般的に発酵は、次のようなバランスで行われます。
・長期間発酵させる場合 → 低温で行う
・高温で発酵させる場合 → 短期間で終了させる
清酒やビールは低温長期発酵の代表例であり、ウイスキーは比較的短期間の発酵です。
しかし焼酎の場合、温暖な地域で比較的高温かつ長期間の発酵が行われるため、腐造を防ぐ特別な工夫が必要になります。
そこで開発されたのが、二次仕込みという仕込み法です。
一次仕込みと二次仕込みについて
ここで、焼酎独自の二次仕込みにいたる工程をご紹介します。
一次仕込み:酵母を育てる「酒母」の工程
焼酎造りは、まず一次仕込みから始まります。
一次仕込みの目的には、もろみを生成すること。
もろみとは、麹・水・酵母からなる酒母のことです。
この段階で重要な役割を果たすのが、麹菌が生み出すクエン酸。
クエン酸は、梅干しやレモンの酸味のもととなる成分で、焼酎造りでは次のような働きをします。
・もろみを強い酸性状態にする
・雑菌の繁殖を抑える
・酸に強い焼酎酵母だけが増殖できる環境をつくる
つまり、クエン酸によって発酵環境が守られ、焼酎酵母が安定して増殖するのです。
二次仕込み:主原料を加えて本格発酵
次に行われるのが、二次仕込みの工程です。
一次仕込みで生成したもろみに、水と主原料(サツマイモ・米・麦など)を加えて発酵を進めます。
すでに一次仕込みで大量に増えた酵母が存在するため、発酵はすぐに活発に始まります。
主原料に含まれる糖分は、酵母の働きによってアルコールへと変換されます。
さらに、一次仕込みで生成したもろみから持ち込まれたクエン酸と、発酵によって生まれるアルコールの働きにより、腐造することなく安全に発酵が進んでいきます。
こうして完成した二次仕込みで生成したもろみを蒸留すると、焼酎の原酒が生まれます。
なお、クエン酸は蒸発しない性質を持つため、蒸留された焼酎に酸味が残ることはありません。
明治時代に確立した画期的な製造技術
この二次仕込みの製法は、明治時代末期に芋焼酎の製造方法を改良する過程で確立されたとされています。
それ以前は、ドンブリ製法といわれる一次仕込みのみで製造されていました。
この方法には次のような利点がありました。
・酒質が優れている
・品質が安定する
・生産性が高い
そのため、この製法は芋焼酎だけでなく、米焼酎や麦焼酎などにも急速に広がっていきました。
特に芋焼酎の原料であるサツマイモは、でんぷん質原料でありながら、蒸すと糖分が生まれるという果実的な性質も持っています。
この特性が、二次仕込みという製法の応用範囲を広げることにつながりました。
焼酎ブームを支えた製造技術
1970年代の焼酎ブームでは、実に多様な原料を使った焼酎が市場を賑やかしました。
従来の芋焼酎一辺倒だったところに、大分の麦焼酎ブームのほか、ごま焼酎や蕎麦焼酎が誕生。
その背景には、どんな原料でも焼酎にできる二次仕込みの技術があります。
この製法があったからこそ、焼酎はさまざまな素材を活かした酒として発展することができました。
焼酎市場の拡大を支えたのは、まさにこの仕込み技術だったといえるでしょう。
伝統発酵と蒸留が生んだ日本独自の技術
二次仕込みは、日本伝統の麹発酵に、クエン酸を生み出す特殊な麹菌を組み合わせた技術です。
この技術の特徴は、クエン酸でもろみの腐造を防ぎ、酸に強い焼酎酵母を増殖させること。
ちなみに、クエン酸は、梅干しやレモンの酸味のもととなる成分ですが、蒸留されないためお酒に影響することはありません。
この発酵と蒸留の組み合わせによって、温暖な地域でも安全で安定した酒造りが可能になりました。
本格焼酎特有の豊かな味わいは、原料の個性と、この製造技術が融合することで生まれているのです。
まとめ
本格焼酎の製造は、麹・酵母・蒸留という日本独自の技術によって支えられています。
その中心にあるのが、一次醪と二次醪を段階的に発酵させる二次仕込みという方法だったのでした。
多様な原料の個性を引き出しながら、安定した品質の焼酎を生み出す。
まさにこの製法は、日本の発酵文化が生み出した知恵の結晶といえるでしょう。
今日私たちが楽しんでいる本格焼酎の豊かな世界は、こうした仕込み技術の積み重ねの上に成り立っているのです。



































