【焼酎の歴史】焼酎と書かれた最古の資料
焼酎という単語は見慣れていますが、深く洞察すると不自然です。
理由は、”酎”という普段は使用することのない文字。
蒸留酒は火力で蒸留しますから、”焼”く”酒”、つまり焼酒である方が自然な気が。
今回は、焼酎という単語がいつから使用されたのか、という歴史をご紹介します。
焼酎の重要な歴史資料は落書き
1954年(昭和29年)に、焼酎という単語の使用が確認された最古の歴史資料が、鹿児島県大口市(現在は伊佐市に編入)にある国指定重要文化財「八幡神社本殿」で発見されます。
それは、解体修理中のこと。
建物の東北の隅柱の北側貫の上端から、修理担当者が棟木札を発見。
そこに落書きがあり、焼酎という文字が書かれていたのです。
落書きには”永禄二年八月十一日”と日付の記載があり、最古の資料とされたのです。
1194年(建久5年)この神社は、当時のこの地を治めていた菱刈重妙が建立。
宇佐八幡を勧請したもので、祭祀は神功皇后。
1507年(永正4年)に、当時の領主だった菱刈重猛が再建し、その後、現在に至るまでに4回ほど改修されます。
その直近の1954年(昭和29年)に解体修理された際の出来事だったのでした。
その落書きには、
永禄二歳八月十一日 作次郎
鶴田助太郎
其時座主は大キナこすでをちやりて
一度も焼酎を不被下候 何共めいわくな事哉
と書かれていました。
落書きの内容
落書きの内容の説明を。
最初の”座主”とは、この神社の宮司のことだと言われています。
公家や社寺が中心の同業組合的組織である「座」と呼ばれる制度が、平安時代後期から室町時代ありました。
この制度の名残が、この神社にもあり、その「座」元のこと。
“こす”はケチとか吝嗇の意味。
そして、名前についてです。
この地方には昔から鶴田姓は大工職に多いそうです。
そのことから、落書きしたのは宮大工の頭領である助太郎と、大工である作次郎。
よって「郡山八幡神社の宮司は、大変なケチで一度も焼酎を飲ませてくれなかった。迷惑なことだ」が大意。
この棟木札の落書きは、2人の宮大工が、一度もつかれ休めの焼酎をふるまってくれないケチな宮司へのうらみつらみを書き残した落書だった、のです。
当時は戦乱の時代
大口地方は古くは牛屎院と呼ばれ、鎌倉時代の領主は牛屎氏となりますが、その後は領主がめまぐるしく交替する、抗争の地。
結局、菱刈氏は、1530年(享禄3年)から1569年(永禄12年)までを最後に、1569年(永禄12年)以降は島津氏が統治します。
この落書きが書かれた1559年(永禄2年)は、3年間続いた葦北郡久木野の領有をめぐって争いの最中。
全国的に言っても、桶狭間の戦いの前年です。
そんな戦乱の時代であっても、普請や建築工事で施主が提供する酒や焼酎は、大工さんの楽しみだったのです。
歴史の教科書では学ぶことのできない、中世の横顔を垣間見せてくれます。
この落書きが教えてくれるもの
もともとこの落書きが着目されるようになったのは、坂口謹一郎博士が「古酒・新酒」(1978年講談社)において、話題に取り上げたことがきっかけ。
その後は、憶測を呼ぶことになります。
憶測の根拠は、
・薩摩に琉球から泡盛が伝わったのは、1515年(永正12年)といわれている(上井覚兼の日記伝)
・サツマイモが薩摩に伝来したのは1625年(寛永2年)といわれている(徳光神社伝)
・この神社の立地する鹿児島県大口市(現在は伊佐市に編入)は、熊本県や宮崎県と隣接する薩摩北部
だったからです。
つまり、
1.今から約460年も前から、
2,薩摩の北部から南部まで広い地域で、
3,様々な階層の人々の間で焼酎が愛飲されていて、
4,それが米焼酎であったこと、
は少なからず驚きをもって迎えられたのでした。
それより以前の記録
焼酎の文字が書かれた資料は、この棟木札の落書きが最古のものですが、それ以前に焼酎について書かれた資料があります。
それは、日本で最も有名な外国人である、フランシスコ・ザビエルが関わっていたものです。
1546年(天文15年)、ジョルジェ・アルバレスというポルトガル人の船乗りが、薩摩半島南端の揖宿郡山川地方に半年間にわたり滞在。
フランシスコ・ザビエルの熱心な信者だったアルバレスは、ザビエル宛に当時の日本の様子をせっせと報告書として書き残します。
それは、「日本報告」と呼ばれ、今では当時を知る貴重な資料ですが、この中に「飲み物として、米からつくるオラーカ(米焼酎)」が飲まれていたことが記されています。
これが、焼酎について最も古い資料といわれています。
まとめ
焼酎の重要な歴史資料は、神社の屋根裏に隠された大工の落書きだったのでした。
その他の明確な資料が見つからないのは、庶民のお酒である焼酎は、資料を記述して後世に残すという動機が薄いのかもしれませんね。
それにしても、宮司が焼酎を振舞ってくれていたら、それがなかったと思うと複雑な気もしますが。
いつの時代も、大好きな焼酎を楽しむ機会は大切にしたいものです。
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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