木樽蒸留とは? 焼酎の蒸留の多様さをご紹介
焼酎造りに欠かせない蒸留器。
その一部で使われる素材が珍しい。
それは杉板を利用した木製の木樽蒸留器。
そんな木樽蒸留器を使用することになった理由と、味わいの特徴をご紹介します。
目次
世界的に珍しい木製の蒸留器
出典 : 三和酒造株式会社
蒸留器は、焼酎だけでなく、ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒を作る上で、欠かすことのできない機器です。
その素材は、鉄やステンレスが一般的。
大容量熱源機器ですから、当然です。
全国に数多ある焼酎酒蔵も、ほとんどステンレス製。
ただ、一部の酒蔵は杉板を用いた木製の木樽蒸留器を使用して、焼酎造りをしています。
それは、世界的にもとても珍しいといわれています。
出典 : 三和酒造株式会社
どうして木樽蒸留器を使用するのか。
焼酎は「天然醸造の自然飲料」といわれています。
それは、その場で収穫した”ホカホカ”の原料から始まり、
・麹を手作り
・甕(土が原料)仕込み
・木樽蒸留器(杉板と竹が原料)
・甕貯蔵
に代表されます。
つまり、焼酎造りは
・人間の手
・木や土の道具
にこだわってきたのです。
ちなみに、木樽蒸留器は一本の釘も、一滴の接着剤も使わず、全て手作業で製造されています。
木樽蒸留と木樽熟成との違い
木樽熟成されたウイスキーやブランデーは、木の香りを感じることができます。
それは、樫材からシリンガ酸や甘い香りを持ったバニリン、リグユン分解物などの多くの成分が分解・溶出するから。
一方、木樽蒸留器で造られた焼酎は、蒸留時の木の香りがほのかに感じられます。
現在、木樽蒸留器を造ることのできる、唯一の職人と言われている鹿児島県曽於市の津留安郎さんのインタビュー記事があり、味わいについての表現があるので、ご紹介します。
「焼酎蔵の方に聞いても皆さん一様に,「木樽の蒸留器でしか出せない,口当たりのやわらかさ,まろやかさがある」と言ってくださいます。私も昔から焼酎が好きですが、お芋や麦、お米といった原料の香りや味わいが優しく出ているように感じます」
引用:Japan Vision Vol.127, 地域の未来を支える人「焼酎用木樽蒸留器職人,津留安郎さん」更新日:2018年10月22日 http://web-ic.fukoku-life.co.jp/japan-vision/127.html?20181022155002
木樽蒸留器の味わいは、木樽熟成酒のように「官能的」なものではなく、”やわらかさ”、”まろやかさ”など「感覚的」なものだというのが、良くわかります。
出典 : 三和酒造株式会社
木樽蒸留器の大変さ
前述した通り、全国に数多ある焼酎酒蔵の蒸留器も、ほとんどステンレス製。
一度、導入すれば半永久的に使うことができますから、当然です。
しかし、木樽蒸留器の耐用年数はせいぜい5~6年。
酒蔵が木樽蒸留器を更新していくのは大変なことなのです。
その上、造り手は津留安郎さんただ一人と言われていますから、発注しても時間がかかります。
さらに、津留安郎さんは、品質を第一にしているので、年間5基くらいの製造が目安のようです。
木樽蒸留器の起源
江戸時代まで
木樽蒸留器のルーツはとても古いものです。
焼酎造りで使用する蒸留器は、日本酒造りに使用する蒸し器を応用したもの、と言われています。
蒸し器の歴史は古く、弥生~古墳時代の昔に発見されています。
当時は、甑(こしき)と呼ばれており、日本人の食にとても関わりのある道具として大切に扱われてきました。
というのも、古くからお米は、炊くのではなく蒸されていたため、その甑が使われていたからです。
甑はまたの名を蒸篭(せいろ)ともいいます。
こちらの名の方が、馴染みはありますよね。
時代も下って日本酒造りが始まると、甑が活躍。
仕込みで使用する米を、大量に蒸し上げる必要があったからです。
そして、酒米の蒸し器から、木製甑型蒸留器が誕生。
江戸時代から明治前半にかけて、焼酎造りに使われるようになったのでした。
明治から大正
明治18年に出版された「銘酒製造法」には,
「焼酎造りには竈に鉄製の平釜を仕掛け,薪を炊いてその上に孔底の木樽をのせ,冷水を盛った平釜を凝結器として載せる」
-引用:海老原幸二郎著「銘酒製造法」/出版高崎修助(1885年)
とあります。
明治中頃は、木製甑型蒸留装置として、南九州を中心とした焼酎造りで使用されていたようです。
一方、この頃の焼酎は自家製造がメイン。
家庭では木製甑型蒸留装置ではなく、「ランビキ」と呼ばれる卓上蒸留器が使われていました。
明治後半、自家製造が禁止になり、焼酎専業蔵が現れるようになるとともに、本格的な木樽蒸留器が活躍するようになったといわれています。
その後、工業の発展もあり、焼酎は飲用のみならず、純度の高いものはエタノールとして利用されるようになります。
そうなると蒸留器は、より効率・大容量が求められます。
連続式蒸留器がイギリスから導入され、日本でも本格的な使用が始まるにつれ、次第に木樽蒸留器は下火になっていったのでした。
現代に復活
ステンレス製に押されて、木樽蒸留器の製造は、一旦途絶えます。
しかし、ある焼酎造りの名人が、津留安郎さんのお父様を探し出して、直接製造依頼。
評判を博して、その後にその他の酒蔵から依頼が継続するように。
結果的に、木樽蒸留器の製造の再開につながったようです。
木製甑型蒸留器は様々な産業で活躍
木製甑型蒸留器は、焼酎以外にも利用されていたので注目です。
・樟脳(しょうのう)
古くから、衣類の防腐剤として活躍してきた樟脳も、木製甑型蒸留器によって大量生産が可能となったのでした。江戸時代後期の1860年 (万延元年)に始まったとされる、土佐式樟脳製造法は,大釜で湯をわかし,甑の中の樟(クスノキ)を蒸し、蒸気を通い筒で冷却水槽に送る外取り式水蒸気蒸留法だったといわれています。
・海水から真水
船乗りが使用した木製甑型蒸留装置は,直釜で海水を沸騰させて真水を得ていたといわれています。
・薄荷の抽出
木製甑型蒸留装置は、薄荷の抽出で利用されていたことが分かっています。
木樽蒸留器で造られた焼酎をご紹介
重さ1トンの「醪」と100°Cの熱にもビクともしないといわれている木樽蒸留器。
サイズは、
大・・・高さ145cm/容量1,000ℓ
小・・・高さ135cm/容量700ℓ
の2種類があります。
それでは、木樽蒸留器で作られたオススメの3本をご紹介
三和鶴
三和酒造は、明治から続く3つの酒蔵が経営統合し、1953年に創業。
この銘柄は、当社が提案するレギュラー酒として、毎日の晩酌用にとオススメの芋焼酎。
原料は鹿児島産の黄金千貫、甕仕込み、木樽蒸留、甕貯蔵、という伝統製法で造っています。
そして注目は、特徴際立つ原酒を3種類ブレンドしていること。
2021年には、熊本国税局酒類鑑評会の優等賞を受賞。
ブレンダーである松元太氏のオススメの飲み方は、水割りです。
【三和鶴 白(さんわつる しろ)】
三和酒造/鹿児島県鹿児島市七ツ島1丁目1番17
主原料/芋(黄金千貫)
麹/白麹(米)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留
萬膳
30年以上も途絶えていた蔵を、平成11年に4台目にあたる現当主が、水のきれいな霧島山中で復活させたのが、萬膳酒造。
契約農家の芋、減農薬米ひとめぼれを使用し、一次二次仕込みとも甕壺仕込み、蒸留は木樽蒸留器を使用。昔ながらこだわりの手仕事が、味にまろやかさを与えています。
霧島山中の清水により生まれる芋焼酎は、柔らかな甘みとコクのバランスが良い極上の逸品です。
【萬膳(まんぜん)】
萬膳酒造/鹿児島県霧島市
主原料/芋(黄金千貫)
麹菌/黒麹(米)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留
千亀女
木樽蒸留は伝統的な製法です。
ただ、その中にあって、この銘柄は現代的な味わいを持つ逸品。
カラメルなどのフレーバーは、ロッックで飲むのがオススメです。
【千亀女(せんがめじょ)】
若潮酒造/鹿児島県志布志市
主原料/芋(黄金千貫)
麹/黒麹(米)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留
まとめ
いかがでしたか。
木樽蒸留器は、ステンレス製とは異なり、日本伝統のよさを今にも伝えている、といえます。
職人の知恵、技術の蓄積、品質よい原材料があってこそ産まれたもの。
そして濃く深い味わいがある焼酎を造りたいとの酒蔵の思いと合わさって、この木樽蒸留器の役割が完結するのでした。
参考 : 米元俊一著「世界の蒸留器と本格焼酎蒸留器の伝来について」(別府大学紀要第58号)
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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