【麦焼酎】兼八(かねはち)/四ッ谷酒造(大分県宇佐市)
全国に四万社以上ある八幡神社の総社が、大分県宇佐市にあります。
宇佐神宮といいます。
祭神は八幡大神(応神天皇)。
そのはじまりについての解明は十分ではありませんが、737年 (天平9年)には存在していたことは知られています。
八幡神は、特定の地名を冠することはなく、仏教との融和と渡来人の文化との結びつきが深いのが特徴。
また、託宣という神の言葉を持ちます。
この託宣で歴史上有名な事件があるので、紹介します。
宇佐八幡宮神託事件といいます。
八幡宮が、日本三大悪人とも称される道鏡に対し「道鏡が皇位に就くべし」との託宣を出したといわれ、これを疑った称徳天皇が和気清麻呂を勅使として参向し、和気清麻呂この神託が虚偽であることを上申したため、道鏡が皇位に就くという野心をつぶしたことで知られています。
その後の平安時代中期には、国東半島を含む豊前のほとんどが宇佐神宮の荘園であったといわれるほど繁栄します。
現在でも、全国に四万余りある八幡宮の総本宮として、参詣する人は絶えません。
そんな大分県はかつて、焼酎造りよりは清酒造りが盛んな土地でした。
福岡と同様、清酒文化圈といってもよいくらい。
そして、ほかの清酒文化圈と同様に、酒粕や糠など清酒造りで発生した副産物を原料に、焼酎造りも兼業(副業)していました。
そんな大分県が、焼酎造りの産地として突如スポットライトを浴びるようになったのは、1974年(昭和49年)に二階堂酒造が「吉四六」を発売したことによる、といわれています。
その後、1976年(昭和51年)には三和酒類が「いいちこ」を発売、大分県が焼酎造りの産地として、不動の地位を築きはじめます。
「二階堂」「いいちこ」の成功は、大分県の多くの酒蔵が、粕取り焼酎や白糠焼酎から麦焼酎製造への転換を進める契機になります。
その後、大分県全域で麦焼酎が造られ、”大分麦焼酎”という認知が広がり始めたのは1970年代後半。
今では、”大分麦焼酎”というと一大ブランドですが、鹿児島の芋焼酎や球磨焼酎などと比較して、歴史は浅いのでした。
「二階堂」「いいちこ」の成功によって、大分麦焼酎の認知は広がります。
一方、大分の地元の酒蔵は、ナショナルブランドといってもよいくらい巨大化した2社との差別化ポイントを模索します。
そして、導き出した答えは、「飲みやすさよりも、うまさ」。
大分の地元の酒蔵は、うまさに差別化ポイントを求めたのでした。
その牽引役は今回ご紹介する「兼八」を製造する四ツ谷酒造。
四ツ谷酒造は、まず、うまさを出すために、減圧蒸留ではなく常圧蒸留にこだわります。
減圧蒸留は、風味に雑味が少なくなり、軽いタイプのスッキリ焼酎。
一方、常圧蒸留は、原料の持つ風味や香り、雑味が幅広く引き出され、濃厚な旨みや香りが出るのが特徴。
これは、減圧蒸留で旋風を巻き起こした「二階堂」「いいちこ」とは逆のやり方です。
結果、常圧蒸留が麦の特徴を最大化させ、”香ばしい麦焼酎”という新たなカテゴリーが生まれたのです。
また、それを表現する“麦チョコ”という言葉も生まれます。
四ツ谷酒造の経営努力のおかげで、大分麦焼酎の発展が深化したのでした。
その後も、差別化ポイントを追求します。
今度は国産の原料に着目。
麦焼酎の原料である麦は、ほとんどの酒蔵では二条大麦が使用されています。
もともと二条大麦は、明治期にビールの原料としてヨーロッパから入ってきたもので、それが麦焼酎に使われ始めます。
粒が大きく、でんぷん価も高いため、焼酎造りに適していたのです。
そんな二条大麦全盛の中、四ツ谷酒造は六条大麦の一種である裸麦を使用。
六条大麦というのは、以前から日本で栽培されている品種で、麦茶や味噌に用いられる食用として知られている麦。
ほとんど焼酎には使われていませんでした。
焼酎に使われていなかった理由は、収得率が二条大麦に比べて低く、しかも醪の温度管理がむずかしいから。
ただ、二条大麦よりも豊かな風味があり”香ばしい麦焼酎”には適正だったのを四ツ谷酒造は着目するのです。
4代目の四ツ谷芳文氏が、裸麦で最初に仕込んだのは、1987(昭和62)年ごろ。
1998年(平成10年)年に「焼酎屋兼八10年貯蔵」の銘柄で発売します。
ところで、大分の麦焼酎の原料は、外麦といわれるオーストラリア産がメインで二条大麦。
裸麦を使ったのは、ハンで押したような原料しか使わない、当時の大分麦焼酎会への痛烈なアンチテーゼとなりました。
その後、四ッ谷酒造は裸麦だけでなく、二条大麦も使うようになります。
が、外麦ではなく、国産。
芋焼酎に品種の違いがあるように、ニシノチカラやニシノホシ、ハルシズクなど麦の品種の違いにもこだわりを始めます。
さらに、大分では多くの製造場で行なっている精密濾過をしないのも特徴。
裸麦で仕込むと蒸留直後も荒々しさがなく、やわらかな仕上がりになるのです。
そのため、四ツ谷酒造の焼酎は、ほとんど濾過しないで出荷しています。
今回ご紹介するのは、そんな四ツ谷酒造のフラッグシップ焼酎「兼八」。
ネーミングは創業者である四ツ谷兼八氏の名前から。
兼八氏は、魚市場を経営していましたが、九州各地で飲んだ焼酎の味が忘れられず、自ら焼酎造りを始めたと伝えられる人物です。
そこまで焼酎に惚れ込んだ創葉者の情熱がこもっている、逸品。
前述の通り、”麦チョコ”という言葉も誕生させました。
仕込み方法でも四ツ谷酒造の独自性は発揮されています。
仕込みは、一次も二次も同じタンクで仕込みます。
つまり、麹も二次用の原料も一緒。
ただ昔からのどんぶり仕込みでというわけでもなく、かといって泡盛のような全麹仕込みでもありません。
理由は、一次醪を二次掛け用に別のタンクに移すと、雑菌が入りやすいので、それを予防するためだそうです。
飲み方はロックがオススメです。
香りは強くはっきりとしており、”麦チョコ”が最大の特徴。
口に含むと、食パンのミミ部分のような、濃縮感のあるパンの香り。
キノコ系の香りや土を連想させる香りや燻製香、白胡椒のようなスパイシーさ。味わいは、ふくよかな印象があり、余韻にもパンの香りが長く持続します。
大分は、カボスやシイタケなどの山の幸、そして豊後牛。まさに食材の宝庫。
「兼八」に合わせる料理としては、シイタケを使用したアミノ酸プンプンのシイタケと牡蠣のバター焼きや、シイタケと牛肉のオイスターソース炒めなんかが料理が合いそうです。
〈銘柄データ〉
【焼酎屋 兼八(しょうちゅうや かねはち)】
四ッ谷酒造/大分県宇佐市
主原料/麦
麹菌/白麹(麦)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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