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「お酒ではなく、その人を売る」という意味。させ酒店(千葉市稲毛区)の魅力をお伝えします!

今回の取材は、「酒屋が選ぶ焼酎大賞」の会場で、「させ酒店」代表である佐瀬伸之(させ のぶゆき)さんにインタビューをしたのがきっかけ。
「焼酎の管理は酒蔵を出ると、酒屋に委ねられる」との言葉がとても印象的で、もう一度、お話を聞きたかったのです。
「させ酒店」の歴史から、酒屋の魅力について、佐瀬さんにお話を伺いました。

「させ酒店」の歴史

SHOCHU  PRESS編集部(以下、編集部) : 本日は、お忙しい中ありがとうございます。まずは「させ酒店」の歴史をお聞かせください。

「させ酒店」代表  佐瀬伸之さん(以下、佐瀬さん) : 本格的に酒屋を始めたのは、40年くらい前と聞いています。駅から離れていて、立地があまりよくないということもあって、前社長である僕の親父が、業務用主体の飲み屋さんの配達から始めました。

編集部 : 佐瀬さんのご経歴をお聞かせください。

佐瀬さん : 僕は、高校では、もともと甲子園を目指して野球をやっていました。甲子園を狙える学校で。その時に感じたのは、最初からレベルの高いところに身を置くと、環境も良く、多くのことを学べるので、成長が早くなるという事です。肩や肘を壊してしまい野球で大学を選ぶことがなくなったので、そうであれば一番身近であった父母がやっていた酒屋、つまり酒に携わる学問を学べる大学ということで、東京農業大学醸造学科を目指しました。お酒の学問ではレベルの高い大学だからです。大学受験は、東京農業大学のみ、醸造学科のみ、一本で。滑り止めすら受けなかったほどです。そして、たまたま、商業高校ながら、理系の東京農業大学に合格することができました。

佐瀬伸之氏の画像

「させ酒店」代表  佐瀬伸之さん

編集部 : 大学の思い出はいかがですか? 東京農業大学醸造学科は、蔵元のご子息が多いといいますが。

佐瀬さん : そうですね。在学中は特に気にしなかったですけど、専門的な勉強していると、実家が酒蔵の人が話をしたりして、それがきっかけで仲良くなったりとか。卒業後も展示会とかに行くと、同級生に会うので、話ししたりする機会があります。東京農業大学は、焼酎蔵でも日本酒蔵でもウイスキーでも必ず社長なり、杜氏さんなり従業員さんが入り込んでいます。人脈的にはサイコーですね。

編集部 : じゃあ、今もその人脈は続いているわけですね。

佐瀬さん : そうですね。同じ中学校、高校でも盛り上がるのと同じです。特に大学、学科が一緒だと格別かと思います。先輩後輩、関係なく、仲良くなれるのは特権かなと思います。

編集部 : 大学卒業後は就職されたのですね。

佐瀬さん : そうですね。もともと実家を継ぐつもりはなかったので。

編集部 : そうだったのですか。

佐瀬さん : はい。就職志望先として、ビールメーカーさんを受けました。その当時は、就職が厳しい時代だったので、案の定、ビールメーカーさんは全部落ちました。最終的には、酒屋さんに卸す、酒問屋さんがあったので、そちらに就職しました。地元の千葉県酒類販売株式会社という会社です。営業をやらせてもらいました。

商品棚の画像

させ酒店を継いだ動機

編集部 : 何年くらい勤められたのですか。

佐瀬さん : 4年勤めました。

編集部 : 4年勤めてから、させ酒店を継がれたのですか?

佐瀬さん : そうですね。問屋さんでやることに限界を感じたのが、退職した理由です。現場を見てお客さんに伝えることがしたかった。その思いが強くありました。なので、これから長い間、酒業界に身を置くのであれば、その点では一番ちょうどいい、潰れそうな「させ酒店」があったので(笑)。潰れそうだから、好き放題できるかなと思いました。そして、25歳の時に、させ酒店を継がせてもらいました。ただ、継いだばかりの頃は、全くお客さんが来ないような状況でした。
佐瀬さんの画像

スタイル確立のきっかけは、村祐酒造さんとの出会い

編集部 : それがここまで、盛り上がったきっかけは何だったのでしょうか?

佐瀬さん : 一番最初にお話しさせていただいたのは、新潟の村祐酒造さんという清酒蔵です。その当時、「淡麗辛口じゃないと日本酒じゃない」といわれた時代でした。その中で、超絶的な甘いお酒を造って、バッシングを受けた酒蔵さんです。ただ、その方の生き方とか、自分の美味しいものを造って売るというスタイルが、とっても個性的で。「人を売る」っていうのに感銘を受けたのです。そういう酒蔵さんとお付き合いするのであれば、僕自身も、全面的に自分の個性を出して、好きなものを伝えていくスタイルに持っていこうと。特にこんな駅から離れた立地なので、そういうスタイルにしたら、マニアックお客さんが来るだろうと考えました。

日本酒の画像

日本酒も豊富に取り扱っている

編集部 : マーケティング的な観点ですね。

佐瀬さん : そうですね。あとは、商品を売るのではなくて、商品とお客さんの間に自分が立って、自分のキャラクターをしっかり売っていく、っていうことも大事かと思います。僕自身も服が好きで、いつも買う時は、必ず売る人のキャラクターを大好きになります。なので、お客さんには、自分で言うのは恥ずかしいですが、僕のキャラクターを好きになっていただいて、その中で、僕のお勧めを買っていただくのが理想かと思います。

編集部 : そのスタイルが浸透するまで、どれくらいかかりましたか?

佐瀬さん : 継いだ最初は、売上も知名度も何もない状態でした。酒蔵さんに行くと、近隣の有名な酒屋さんの話をされる始末で。ただ、あくまでも自分の力不足だなと思うようにしました。アピール不足、実力不足。「そりゃあそうだよな」って、自分に言い聞かせました。酒蔵さんというのは、自分の魂込めた、お酒を造るたわけですから、誰でもいいから渡すわけではないのです。やっぱり信頼とかそういう形の中で、取引が始まるものなのです、なので、最初は苦労しましたね。

島田さんの画像
スタッフの島田さん。積極的に自分を売っている

“甘い”や”辛い”では伝わらない

編集部 : それが今では大人気店に

佐瀬さん : ウチの売上の比率は、業務用4割、インターネット3割、店が3割です。僕みたいな、超絶な人を好きになる、理解のあるお客さんが多くなりました(笑)。

編集部 : 酒屋さんとしては、理想の形ですね。

佐瀬さん : このスタイル確立には、20年かかりました。その間にはお客さんとトラブルもありました。物事をはっきり言うからです。

編集部 : 例えば、どういったことですか?

佐瀬さん : お酒のイメージは「甘い」とか「辛い」で話してしまうと、5秒10秒で終わってしまいます。僕はそのような話はしません。例えば、勝浦に鰹が揚がって来る時期に、鰹にあう日本酒をオススメします。話のきっかけとして、その方が具体的でイメージしやすいので。すると年配の方は、「俺は鰹なんて食わねえよ。そんな話を勝手に始めるんじゃねえ」と言われたり(笑)。でも、そのあたりは、今では気にしていません。それはそれで、自分のキャラクターを売るためには、重要なことだと信じるようになりました。

接客体験の画像
佐瀬さんもお客様に自分を売っている

焼酎の新しい魅力

編集部 : 焼酎についてお聞かせください。

佐瀬さん : 東京農業大学の2年下の学年は優秀で、中でも小正醸造さんの小正くんは、焼酎に加えて、ウイスキーも嘉之助蒸溜所をやられています。とても商売センスに長けている。先先代が始めた「メローコヅル」という樽貯蔵の焼酎を受け継ぎ、伝統を活かしながらウイスキー造りを進めています。今では、ウイスキー造りを焼酎に転化して、複合性を持った”蒸溜酒”という形にまで昇華させています。ひとつの例として、小正醸造さんの蒸留所は海に近いところにあるので、小正醸造さんのお酒には、”塩っけ”があります。ウイスキーの香りの表現で、”ブリニー”といわれるものですよね。樽貯蔵した焼酎にブリニーさが加われば、焼酎の新しい魅力になるのかなと。そういった開発力を、小正醸造さんの小正くんは持っていると思います。

メローコヅルの画像

メローコヅル(小正醸造)

編集部 : それは、新しく奥が深い視点ですね。

佐瀬さん : ウイスキーファンを焼酎に持ってこられると思います。基本的に蒸溜酒好きは、両方飲める方が多い。ただ、いきなり「芋焼酎飲んでみな」と言っても好き嫌いがあります。ただ、複合性を繋げてあげると興味を持ってくれます。ウイスキーに被せて焼酎について徐々に話をすると、「飲んでみようかな」って言ってくれます。実は、飲まず嫌いというのもあります。
ただ、時間はかかると思います。ウイスキーはもともと歴史があって、スペイサイドやキャンベルタウンなど、地区地区でやっぱり熟成環境が違うため個性もそれぞれ強烈ですから。

焼酎を売るのではなく、その人を売る

編集部 : ほかの焼酎はいかがでしょうか。実際に、焼酎の売れ行きはいかがでしょうか。

佐瀬さん : うちでは、個性を放っている焼酎は売れています。天狗櫻が有名な白石酒造さんにファンがいます。発売のたびに、楽しみにしていて。白石酒造さんの白石くんも、東京農業大学の2年下の後輩になりますが、天才肌の人です。テロワールと呼んでいる、自社畑の特別のサツマイモで芋焼酎を造リ始めたのも、彼のアイディアからです。

佐瀬さん : これからの売れ方というのは、”芋焼酎が”っていうよりは、”その人その酒蔵の個性”で売れるのかなと思います。そのあたりは、酒屋さんの役割は重要です。だから、”焼酎を売る”のではなくて、”その人を売る”ってことなのかなと、切実に感じています。

天狗櫻の画像

天狗櫻(白石酒造)

編集部 : 他には、イチ押しの銘柄はありますか? そちらの、琥珀色した銘柄は何ですか?

佐瀬さん : これは、「好きになるか、キライになるか」っていう、どっかのスコットランドの蒸溜所のキャッチフレーズみたいな感じのスモーキーな芋焼酎です。芋を蒸すのではなく、燻製をかけて、それで仕込んでいます。そこに桜チップとか入れて蒸留するから、スモーキーな感じが出ます。色見ていただけるとわかると思いますが。樽でちょっと寝かしています。下手するとこの樽自体が、スモーキなウイスキーを貯蔵した後の樽を使っているのかもしれない。直接、蔵元の本坊酒造さんに伺いましたが、そのあたりは企業秘密らしく、教えてくれませんでした。この銘柄は、ウイスキーファンを芋焼酎にもってこさせる架け橋としては最高なのかなと思います。500mlで2000円くらいなので、ウイスキーを飲む人にとっては、全然安いのです。今流行りのハイボールで飲んだら、最高です。

スモーク焼酎の画像

佐瀬さんが手に持つのが、スモーク焼酎(本坊酒造)

佐瀬さん : 芋焼酎にはフーゼル油という、うまみ成分でもある一方、独特なオイリーさが好き嫌いのもとになりますが、こういったものも重要かなと思います。
やっぱり個性を放つ、その商品群の中で超絶的なものが生まれると、マニアックな方が引っ張ってくれます。それが、SNSなどを使った現代の情報発信力の良さだと思います。

編集部 : 示唆に富んだお話を、ありがとうございました。

取材を終えて

現代は、インターネットが普及し、モノを購入するのは、ECサイドで完結する時代。
豊かで確かな情報、簡易な決済、受け取りの利便性において、ECサイトは既に確固たる優位性を築いています。
かたや、実店舗はECサイドに凌駕され、減り続けており、百貨店の減少がそれを裏付けます。

では実際に、実店舗は消滅するのでしょうか。
その答えのヒントが「させ酒店」にありました。

させ酒店を取材した短い時間に、数組の来客がありましたが、佐瀬さんとスタッフの島田さんは、とにかくお客様と会話をします。
商品説明はもちろんのこと、とにかく会話をします。
印象的なのは、”どのシーンでお酒を飲むのか”までを聞いていたところです。

佐瀬さんは「焼酎を売るのではなくて、その人を売る」といいますが、その意味を垣間見た瞬間でした。
そのお客様は、させ酒店の”リアルな接客体験”を感じたことでしょう。

この、させ酒店のあり方は、これからの実店舗の存在意義を示しているように思いました。
させ酒店には、ECサイトでは味わえない「体験(=ライブ)」があるのです。
取材時にも、超絶な楽しいお話をたっぷり伺いました。

どうぞ、遠方にお住いの方も、実店舗ならではの、させ酒店の「ライブ」を感じに訪店してみてください。

させ酒店の画像

〈ショップデータ〉
【させ酒店】
住所/千葉県千葉市稲毛区穴川3-3-3
電話/043-251-3444
https://www.sasesaketen.com

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