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連続式蒸留機とは何か?|甲類焼酎を生んだ近代蒸留技術の歴史

焼酎甲類やウォッカなど、クセのない高純度アルコールを可能にした「連続式蒸留機」。
この装置は、焼酎の酒質と飲まれ方を大きく変え、日本の酒類史に決定的な転換点をもたらしました。

連続式蒸留機は単なる機械ではありません。
その背景には、古代から続く蒸留技術の進化と、日本の近代化の歴史が重なっています。

日本における高純度アルコールのはじまり

日本で高濃度アルコールが意識的につくられた最初の例は、幕末にさかのぼります。

安政4年(1857年)、薩摩藩の集成館では、火薬や医薬用のアルコール製造が行われていました。
これは甘藷焼酎などを繰り返し蒸留して度数を高めたものと考えられています。

明治6年(1873年)には、東京・神田の太田倉吉が、単式蒸留機(らんびき)による再留で35~45度のアルコール製造に成功しています。
この段階では、酒質は現在の本格焼酎とほぼ同じ水準でした。

連続式蒸留機の導入と「新式焼酎」の誕生

日本に初めて連続式蒸留機が輸入されたのは、明治28年(1895)頃。
日清戦争後、火薬製造用として板橋(東京)と宇治(京都)に設置されました。

この装置によって、94度前後の高濃度アルコールが初めて工業的に製造可能になります。

その後、明治32年、日本酒精株式会社が創立され、ドイツ人技師の指導のもとで本格的なアルコール製造が始まります。
そして明治43年(1910年)、愛媛県宇和島工場で、アルコールを水で割った日本初の「焼酎甲類」が誕生しました。

当時はまだ「甲類・乙類」という分類はなく、
・連続式 → 新式焼酎・酒精式焼酎
・単式 → 旧式焼酎
と呼ばれていました。

初期の連続式蒸留機が抱えていた課題

初期の連続式蒸留機(イルゲス式)は、
・醪塔
・分離塔
・精留塔
・精製塔
という複数の塔を持つ大規模装置でした。

しかし当初は、完全に異臭を除去することが難しく、過マンガン酸カリ処理や活性炭濾過が不可欠でした。

つまり、当初の甲類焼酎は「そのまま飲める酒」ではなく、化学的精製を前提としたアルコールだったのです。

蒸留技術の進化が“無味無臭”を可能にした

その後、蒸留機の改良は続きます。

昭和35年(1960年)、工業技術院により、減圧蒸留併用型のスーパ・アロスパス蒸留機が開発されます。

この技術によって、
・不純物の大幅低減
・精製工程の簡略化
・「そのまま割って飲めるアルコール」
が可能になりました。

現在の焼酎甲類やスピリッツの酒質は、ここで完成したといっても過言ではありません。

連続式蒸留機のルーツは古代アレクサンドリアにある

連続式蒸留機は近代工業装置ですが、その祖先は古代にあります。

原型は、紀元前3世紀頃、アレクサンドリアで生まれた蒸留器「アランビック」。
もともとは錬金術や医薬の器具でした。

この技術は
・シルクロード経由で中国へ
・アラブ世界からヨーロッパへ
と東西に広がっていきます。

中国では穀物醪に適した構造に進化し、これが沖縄・鹿児島に伝わり、焼酎・泡盛の蒸留器となりました。

一方、西へ渡ったアランビックは、ワインや麦を蒸留する装置として発展し、
ブランデーやウイスキー文化を支える存在になります。

単式と連続式は“千年以上離れて再会した兄弟”

明治28年、日本に輸入された連続式蒸留機は、実はこの古代アランビックの思想を、近代化学工学で完成させた装置でした。

つまり日本では、
・中国型アランビック(らんびき)
・ヨーロッパ型アランビックの進化形(連続式蒸留機)
が、約千数百年の時を隔てて再会したのです。

和釜に甑をのせた単式蒸留機と、蒸留塔を何本も備えた巨大装置は、見た目こそ違えど、同じ祖先を持つ蒸留技術の子孫でした。

連続式蒸留機が焼酎にもたらしたもの

連続式蒸留機の導入によって、日本の焼酎は大きく変わります。

・大量生産が可能になった
・安定品質のアルコールが供給できるようになった
・クセの少ない酒質が誕生した
・酎ハイ・サワー文化が成立した

一方で、単式蒸留機による本格焼酎は、「風味を残す酒」として独自の価値を確立していきます。
現在の「甲類と乙類」という構造そのものが、この蒸留機の違いから生まれたのです。

連続式蒸留機とは、蒸留史の集大成である

連続式蒸留機は、単なる工業設備ではありません。
古代アレクサンドリアから続く蒸留の知恵が、化学工学によって完成した姿です。

焼酎甲類の背後には、
・錬金術
・シルクロード
・近代工業
という、世界史規模の技術の流れがあります。

連続式蒸留機を知ることは、焼酎を「酒」ではなく「文化と技術の結晶」として見る入口でもあるのです。

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