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焼酎の味を決めるのは人だった。“杜氏(とうじ)”という仕事と、焼酎の現場

焼酎の味を決めるのは人だった。“杜氏(とうじ)”という仕事と、焼酎の現場

「この焼酎、なんだか今年はうまいな」
そんな微妙な違いを生み出しているのが、杜氏(とうじ)と呼ばれる職人たちです。

杜氏は、米やサツマイモの選定から、麹づくり、もろみ管理、蒸留、貯蔵、製品管理まで――焼酎造りのすべてに責任を持つ“現場の最高責任者”。
機械がどれだけ進化しても、最後に味を決めるのは、いまも人の目です。

この記事では、
・焼酎杜氏とは何をする人なのか
・鹿児島に根づいた杜氏集団の歴史
・修業、働き方、そして今起きている変化
を、できるだけ分かりやすく、現場目線で掘り下げていきます。

焼酎杜氏とは?味を預かる“蔵の総監督”

焼酎造りには、必ずと言っていいほど「杜氏」と呼ばれる技術者がいます。
原料選びから麹、もろみ、蒸留、水、貯蔵管理まで――すべてに目を配る存在で、「いい焼酎ができるかどうかは杜氏次第」と言われてきました。
面白いのは、杜氏の多くが蔵の経営者ではないこと。
いわば“季節雇用のプロ職人”として、各地の蔵に呼ばれて酒を仕込む存在でした。

だからこそ、
👉 杜氏が変わると、酒の味が変わる
👉 同じ蔵でも、年ごとに表情が違う
そんな現象が起きてきたわけです。

鹿児島焼酎を支えた「黒瀬」と「阿多」の杜氏たち

日本酒の世界では、丹波杜氏や南部杜氏が有名ですが、焼酎の世界で重要なのが、鹿児島・黒瀬と阿多の杜氏集団です。

とくに黒瀬(現在の南さつま市笠沙地区)は、山あいの小さな集落。
ここから多くの若者が焼酎蔵へ出稼ぎに出て、やがて“杜氏の里”と呼ばれるようになりました。

最初に焼酎技術を持ち帰ったのは、明治時代の黒瀬矢吉さん。
沖縄出身の職人から技術を学び、それを村に伝えたことで、黒瀬には焼酎職人が次々と育っていきます。

一方、阿多(金峰町)にも同じように杜氏集団が生まれ、
黒瀬・阿多の杜氏たちは鹿児島県内だけでなく、九州一円の焼酎蔵で活躍するようになりました。

焼酎杜氏の修業は最低5年。“資格”はなく“現場”がすべて

焼酎の杜氏になるのに、試験や免許はありません。
あるのは、最低5年以上の現場修業と、周囲からの信頼だけ。

蔵子(くらこ)として働きながら、
・原料処理
・麹づくり
・仕込み
・蒸留
・管理
を体で覚え、「もう一人前だな」と認められて初めて杜氏になります。

焼酎造りは、毎年9〜10月から翌年3月頃までの季節仕事。
寒い蔵で、水仕事に追われ、夜通しもろみを見守る日々が続きます。

機械化された今でも、
👉 発酵の音
👉 泡の立ち方
👉 香りの変化
を見極めるのは、人の感覚です。

昔の焼酎蔵は、まさに“体力勝負”の現場だった

かつての焼酎造りは、今とは比べものにならない重労働でした。

黒麹菌での麹づくりでは、全身が真っ黒になる。
寒い冬でも、蒸米と麹の熱で蔵は蒸し風呂状態。
夜通しの作業も当たり前。

それでも杜氏たちは、「焼酎は生きもの。目を離せない」と語り、何度も蔵を見回ったといいます。

仕事が終われば、村に帰って“酒を酌み交わす”

仕込みが終わる春。
杜氏たちは、自分が造った焼酎を土産に村へ帰ります。

そこで待っているのが、
👉 仲間との酒
👉 苦労話
👉 互いの酒の飲み比べ
この時間が、次の酒造りのヒントにもなっていました。

焼酎造りだけでなく、夏は製茶工場、農作業――
彼らは“通年の職人”として、地域の中で生きてきた存在でもあったのです。

機械化と後継者不足。いま杜氏の世界は転換点にある

時代が進み、焼酎造りは大きく変わりました。

・自動製麹機
・温度管理システム
・分析技術
設備は進化し、「杜氏はいらない」という声も一部にはあります。

実際、大学で醸造学を学んだ技術者が、近代的な焼酎造りを担う蔵も増えています。
それでも現場からは、こんな声も聞こえます。
「焼酎は生きもの。機械では見きれない変化がある」

数値では測れないズレを察知する力。
微妙な異変に気づく感覚。
それこそが、長年の現場が育てた杜氏の“カン”です。

焼酎のうまさの裏側には、必ず“人”がいる

「手づくり焼酎」という言葉はよく使われます。
でも本当の意味での“手づくり”とは、
👉 熟練した人が
👉 長い経験をもとに
👉 五感で向き合うこと
ではないでしょうか。

焼酎杜氏という存在は、いま大きな転換期にあります。
それでも、グラス一杯の奥には、何十年も蔵に立ち続けてきた誰かの仕事が、確かに残っています。

次に焼酎を飲むときは、「これを見ていた人がいたんだな」
そんなことを少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。

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