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大正・昭和の焼酎史|戦争と不況の時代を生き抜いた庶民の酒

大正・昭和の焼酎史|戦争と不況の時代を生き抜いた庶民の酒

焼酎の歴史は、単なる酒類の変遷ではありません。
それは、日本の近代史――戦争、不況、食糧難、闇市、復興――と深く結びついた「生活の記録」でもあります。

ここでは、大正期から昭和戦後復興期までの焼酎の歩みを、時代背景とともに整理します。

大正時代|好景気の波に乗った焼酎産業

第一次世界大戦(1914年〜1918年)により、日本は空前の好景気を迎えました。
工業は発展し、貿易額は急増。国内経済は活況を呈します。

この追い風を受け、宮崎県の焼酎生産量も拡大しました。
・1919年(大正8年):約33,400石
・1922年(大正11年):戦前最高の約33,820石
焼酎はこの時期、すでに地域に根ざした酒として安定した需要を持っていました。

昭和初期|世界恐慌と焼酎不況

しかし好況は長く続きません。
1929年(昭和4年)の世界恐慌により、日本経済は一気に冷え込みます。

農産物価格は暴落し、焼酎市場も直撃を受けました。
宮崎県の焼酎生産量は1939年頃まで、約2万石台の低迷期に入ります。

価格競争も激化し、1930年には鹿児島・宮崎両県で協定価格が決められましたが、乱売は止まらず、市場は混乱しました。

戦時体制下の焼酎|統制とアルコール工場

1937年の日中戦争勃発以降、日本は本格的な戦時体制へと移行します。

1939年、甘藷(さつまいも)が配給統制対象となり、焼酎も生産統制を受けるようになります。
これまで「地域性が強い酒」として自由だった乙類焼酎も、ついに統制下に入りました。

さらに宮崎では、ガソリン不足を補うため、甘藷由来の工業用アルコール工場が建設されます。
酒としての焼酎だけでなく、「燃料」としてのアルコール生産も始まったのです。

太平洋戦争と焼酎業界の崩壊

1941年、太平洋戦争が開戦。
空襲、物資不足、労働力不足により、焼酎工場は破壊され、生産力は激減しました。

焼酎は配給制となり、自由に飲める酒ではなくなっていきます。

1945年8月、終戦。
ここから焼酎史の中でも、最も過酷な時代が始まります。

戦後の食糧難と「ヤミ焼酎」の時代

終戦直後の日本は深刻な食糧難に陥ります。
酒類も極端に不足し、正規の焼酎は非常に高価で手に入りにくい存在でした。

そこで広がったのが「ヤミ焼酎(密造酒)」です。

各地で密造酒が横行し、宮崎では北九州にまで流通する規模に拡大しました。
密造は脱税・無免許製造として厳しく取り締まられましたが、多くの人にとってそれは「生きるための手段」でもありました。

ヤミ焼酎は、結果として庶民の“アルコール飢餓”を救っていた側面もあったのです。

メチルアルコール事件と焼酎禍

この時代、深刻な社会問題となったのがメチルアルコール中毒です。

燃料用アルコールを原料にした密造酒によって、
1946年には2,000人以上の中毒患者が発生し、その約75%が死亡しました。

視神経障害や死亡事故が相次ぎ、「焼酎禍」と呼ばれる事態に発展します。
焼酎のイメージが大きく損なわれた時代でもありました。

20度焼酎誕生の背景

密造酒に対抗するため、国税当局は1950年代に酒税の軽い「20度焼酎」の販売を特別に認めます。

これが、現在の宮崎県に20度焼酎文化が根づく大きな要因となりました。

・25度焼酎は高価
・密造酒は安価で大量流通
・そこで「正規で安い焼酎」が必要になった

20度焼酎は、まさに戦後社会が生んだ制度的産物だったのです。

復興期|焼酎産業の再建と近代化

1955年(昭和30年)、宮崎県の焼酎生産量は戦前水準に回復。
1958年には戦前記録を更新します。

この頃から、焼酎製造の機械化・近代化が急速に進みました。

特に1961年の自動製麹機の開発は画期的で、
重労働だった麹造りは大きく改善され、品質と労働環境の両面で革命が起こります。

市場競争と自主規制の時代へ

生産量が回復すると、今度は供給過多が問題となります。
価格競争が激化し、倒産も相次ぎました。

そこで1956年、宮崎県内の焼酎業者は自主規制に踏み切り、生産量を制限。
この規制は1968年まで続き、業界再編の土台となっていきます。

まとめ|焼酎は「時代と一緒に生きてきた酒」

大正の好況、昭和の恐慌、戦争、密造、復興、近代化。
焼酎はそのすべての時代に寄り添いながら、日本人の生活の中にあり続けました。

焼酎は嗜好品である前に、
生き延びるための酒であり、日常を支える酒だった

この歴史を知ると、
いま私たちが飲んでいる一杯の焼酎の見え方も、少し変わってくるはずです。

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