【焼酎メーカー売上高ランキング(2021年)】 上位50社の売上高合計、2005年以降の最低を記録
〜 霧島酒造が10年連続でトップ 〜
目次
はじめに
国税庁が発表した 2020 年度の国内酒類消費量は、約782万7600キロリットルで、前年度比3.7%減少した。
減少するのは5年連続で800万キロリットルを割り込んだ。酒離れや消費者嗜好の多様化等により厳しい状況に立たされるなか、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感 染拡大の影響で外食産業向けの販売が激減し、酒類業界全体が打撃を受けている。
そんななか、リキュール(前年度比 6.7%増)やスピリッツ(同 15.4%増)、甘味果実酒(同 8.3%増)は、缶チューハイや缶カクテルなどのRTD(Ready To Drink)飲料市場の拡大やコロナ禍による”巣ごもり需要”もあって、それぞれ消費量や伸び率は増加傾向にある。
一方、焼酎消費量は前年度比 4.1%減の約72万4900キロリットルで、さかのぼって確認できる2007年度(100 万 4700キロリットル)以降、3 年連続で 80 万キロリットルを割り込んだ。
焼酎市場が年々減少傾向で推移しているなか、消費者のニーズにマッチした商品の開発等が今後の重要なポイントとなろう。
帝国データバンク福岡支店では、売上高に占める焼酎・泡盛の割合が5割以上となった酒類製造業者(焼酎・泡盛以外の事業で計上した売上高も含む)を『焼酎メーカー』と定義。
企業概要 ファイル「COSMOS2」(約 147 万社収録)より、全国の焼酎メーカーの2021年(1月期~12月期) 売上高をランキング形式により抽出し、上位 50 社の売上高や利益動向などについて集計した。なお、本調査は2021年8月に続く19回目。
調査結果(要旨)
- 2021年の売上高ランキングは、「黒霧島」で知られる霧島酒造(株)(宮崎県都城市)が10 年連続でトップ。2 位は、「いいちこ」ブランドを主力とする三和酒類(株)(大分県 宇佐市)。3位にはオエノンホールディングス(株)(東京都墨田区)を持株会社とする 「オエノングループ」の焼酎事業が入った。
- 上位50社の売上高合計は2793億4600万円と、前年比4.0%減少した。なお、「オエノングループ」の売上高を除外し51位の売上高を加算して計算した調整後の売上高合計は前年比 4.2%減の2414億9700万円と、比較可能な2005年以降では過去最低を記録した。
- 上位50社のうち「減収」企業は39社と、2003年の調査以降、最も多かった。売上高規 模別にみると、巣ごもり需要分をカバーできず、全ての規模で減収が上回った。
- 税引き後当期純利益が判明した38社のうち、「黒字」企業は35社。
- 都道府県別にみると、社数は「鹿児島県」が22社、売上高合計は「宮崎県」が808億2000万円で、それぞれトップとなった。
1.売上高ランキング
1位 霧島酒造 599億7800万円(前年比4.1%減)
全国焼酎メーカーの2021年(1月期~12 月期)の売上高ランキングは、10年連続※1で霧島酒造(株)(宮崎県都城市)がトップとなった。「黒霧島」を主体に、「白霧島」「赤霧島」などを展開している。
期中は主力商品「黒霧島」の安定した出荷に加え、「茜霧島」の通年販売を開始した。
コロナ禍による巣ごもり需要から一般個人向けの販売は堅調だったものの、度重なる緊急事態宣言の発出から居酒屋やレストランなど業務用が伸びなかったことから、前年比4.1%減となった。
※1 2015年4月に旧・霧島酒造(株)は霧島ホールディングス(株)に商号を変更したうえで持ち株会社となり、新たに設立した霧島酒造(株)(2014年3月設立) が酒類製造部門を継承した。順位は旧・霧島酒造(株)からの通算。
2位 三和酒類 427億1000万円(前年比0.6%減)
三和酒類(株)(大分県宇佐市)は、10 年連続で2位をキープ。
“下町のナポレオン”の愛称で知られる「いいちこ」シリーズを主体に、地元大分県産の麦を使用した「西の星」ブランドを展開。
関東・関西・中部などの大都市圏をはじめ、北米やアジアなど世界各国・地域に販路を構築している。
コロナ禍以降は、外出自粛に伴う“巣ごもり需要”による「いいちこパック」等の紙パック商品や開けてすぐ飲める「RTD」タイプの販売増に加え、幅広い年代から 人気の俳優を起用したテレビCМ等で販促を進めた。
一方、緊急事態宣言の発出などによる影響で外食産業向けの販売が激減分をカバーできず、前年比0.6%減となった。
3位 オエノングループ 383億6900万円(前年比2.5%減)
オエノンホールディングス(株)(東京都墨田区)では、傘下の合同酒精(株)(東京都墨田区)、福徳長酒類(株)(千葉県松戸市)、秋田県醗酵工業(株)(秋田県湯沢市)の3社で焼酎を製造しており、本調査では同3社の焼酎事業の売上高[有価証券報告書記載のセグメント別アイテム(主要製品)別の販売実績]を集計対象としている。
2008年以降、連結売上高に占める焼酎比率が5割を下回って集計対象外となっていたが、5割を上回った2017年から再度集計の対象となった。
しそ焼酎「鍛高譚(たんたかたん)」をはじめ、本格焼酎「博多の華」シリーズ、北海道において大きなシェアを握る甲類焼酎「ビッグマン」シリーズなど多様なラインナップを展開している。
新型コロナの影響で外食産業向けの焼酎販売量が減少する一方、“巣ごもり需要”の拡大に伴う”家飲み”需要の増加で「博多の華」シリーズや、甲類乙類混和焼酎の「すごむぎ」「すごいも」シリーズが好調に推移した。
また、期中に「鍛高譚」の公式Twitterアカウントの開設を記念した販促キャンペーンを実施したほか、「日本ネーミング大賞 2021」の地域ソウルブランド部門で最優秀賞を受賞するなど、商品認知度の向上に努めた。
しかし、度重なる時短営業やアルコール類の提供自粛もあって、前年比2.5%減となった。
前回調査では、決算時期によってコロナ禍の影響をあまり受けていない企業が散見されたが、2021年調査では大半の企業でコロナ禍の影響を受けており、上位10社中、6社が減収と なるなど、トップ10では減収企業が増収企業を上回った。なお、前年6位の濵田酒造(株)(鹿児島県)が5位に入り、初めてトップ5にランクインした。
2.売上高合計推移
オエノングループは2008 年(2009年発表分)から2016年(2017年発表分) まで焼酎事業の売上高が50%を下回り集計対象外となっていた。
このため、上位50 社の売上高合計については、2009年(2010年発表分)の集計時に、2005年までさかのぼって同グループの売上高を除外し、かつ、51 位企業の売上高を加算する調整を実施。
以降、この調整後データを用いて売上高合計の推移をみてきたため、2021年は2016年以前との単純比較ができない。
そこで、上記と同様の調整を行ったうえで売上高合計を比較すると、2021年の上位50社(調整後)の売上高合計は、前年比4.2%減の2414億9700万円と、5 年連続で減少した。ピーク時の2008年(3090億1300万円)から21.8%減少し、さかのぼって確認できる2005年以降の最低を記録した。
消費者嗜好の変化によりウイスキーやワイン、リキュール類との競合が激化するなか、若者をはじめとする酒離れなどで苦戦が続いている。
さらに、新型コロナによる影響で外食産業向けの販売減をカバーできず、減収を強いられた企業の増加などが影響したとみられる。
なお、調整前の上位50社の売上高合計は2793億4600万円で、前年(2907億7900万円)と比較すると4.0%の減少となった。
3.売り上げ動向
売り上げ動向をみると、「増収」企業が11社(前年10社)だったのに対し、「減収」が39社(同39社)にのぼり、8割近い企業が減収を余儀なくされた。
10年前の2011年と比較しても「減収」が5社増となり、2003年の調査以降、2020年と並び最も減収企業が多くなった。
2019 年10月からの消費税増税による販売量の低迷に加え、新型コロナの影響から減収企業が最も多くなっている。
売上高規模別でみると、全ての規模で「減収」が「増収」を上回っているのは注目すべきポイントだ。
前回調査では、「100億円以上」の企業は、規模の大きい企業を中心に”巣ごもり需要” を取り込み増収に転じた企業が散見された。
■ 上位50社の売上高規模別の売上動向
しかし、今回調査では、行動制限の強い緊急事態宣言の発出に加え、長期化する時短営業や酒類提供自粛から、巣ごもり需要分をカバーできず、全ての規模で減収に転じた企業が上回った。
売上高規模別の社数を前年と比較すると、「100億円以上」の企業数に変動は見られないものの、「50億~100億円」が前年1社減、「20億円~50億円」が同2社減となった。
売上高規模別の売上高合計を見ると、売上高規模を下げた企業の移動で、「10億~20億円」は増加したものの、売上高合計の約 65.2%を占める「100 億円以上」は前年比約2.0%減の1821億円となるなど、大規模メーカーが苦戦している様子がうかがえた。
4.利益の動向
税引き後当期純利益が判明した38 社のうち、「赤字」企業は3社で、構成比は7.9%と1割に満たなかった一方、「黒字」企業は35社で、構成比は9 割を超えた。
売り上げが前年から減少した 企業が39社を占めているものの、コロナ禍で出張費や車両費といった「販売費及び一般管理費」が削減できたことから、減収にも関わらず「黒字」を確保した可能性が考えられる。
5.都道府県別の分布
売上高上位50社を本社所在地別にみると、「鹿児島県」が前年から1社減の22社でトップ。
以下、「宮崎県」が前年から1社増の6社、「大分県」と「沖縄県」が各4社で続いた。
他方、都道府県別の売上高合計は、「宮崎県」が808億2000万円で7年連続のトップ。
6社中2社が増収となったものの、売上高1位の霧島酒造(株)含むほか4社が減収となったことで、前年比2.1%減となった。
2 位の「鹿児島県」は22社中17社が減収を余儀なくされ、同5.5%減の647億800万円。3位の「大分県」は麦焼酎を主力とする4社全てが減収で、 同2.6%減の589億8000万円と、4年連続で3県とも減収となった。
まとめ
2021年の焼酎メーカー売上高ランキングでは、霧島酒造(株)が10年連続で首位となり、同社の売上高は10年前の2011年(486億2600万円)と比べて1.23 倍に伸びている。
しかし、上位3社全てが減収となったほか、上位50社の調整後の売上高合計はピーク時の2008年と比べて21.8%減となり、前年比でも4.2%減となっている。
酒類業界全体をみても、人口減少や少子高齢化により飲酒率の高い年齢層が減少しているうえ、健康志向の高まりによる飲酒の敬遠や若者の酒離れといった問題も抱えている。
焼酎業界もそうした問題に加えて、ウイスキーを炭酸水(ソーダ)で割ったハイボールなどの需要の増加や“家飲み”に適した缶チューハイや缶カクテルなどのRTD・低アルコール飲料が続々と登場したことで、需要が低調に推移している。
2021年は新型コロナの影響により、外食産業向けの販売が激減したことに加え、インバウンド需要の喪失や国内観光客の減少に伴う土産品の販売低迷も続いた。
また、サツマイモの実が腐る「基腐病」の拡大によるサツマイモの値上がりや原油・原材料価格の高騰もあって、焼酎全体としては伸び悩んでいる様子がうかがえた。
今回の調査では、緊急事態宣言の発出や酒類提供自粛等の影響で、飲食店といった外食産業を中心に事業拡大を進めている企業が、出荷数量の急激な減少によって減収となった企業が多い。
小規模企業においても“巣ごもり需要”を取り込もうとしたものの、同業他社との競合で販売量が伸びなかったとする理由が見受けられた。
しかし、コロナ禍にも関わらず「増収」企業は11社と、苦戦を強いられる企業が散見されるなか、着実に売り上げを伸ばしている企業がみられるのは注目すべきポイントだ。
増収した企業は、ぺットボトルや紙パック製品といった”家飲み”のニーズが高い新商品の投入やSNSの発信、海外市場の開拓が進んだことで、売り上げが伸びたとする理由が多かった。
このことからもSNS等を活用した販促策は必須条件といえよう。
2022 年は新変異株「オミクロン株」の感染拡大により飲食店など業務用商品の需要低迷が続いているほか、原油価格高騰で包装資材や燃料費などのコスト上昇分を価格転嫁できない企業も 多くみられる。
とりわけ、長期化するコロナ禍で焼酎メーカーは更なる苦戦を強いられるなか、”家飲み”といった消費者のニーズにマッチした商品の開発とブランド価値向上が必要不可欠となるだろう。
株式会社帝国データバンク福岡支店情報部
焼酎メーカー売上高ランキング(2021年)
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