
黒糖焼酎はこうして生まれた。―奄美と昭和、そして“黒糖が焼酎になった日”―
黒糖焼酎は、日本中を見渡しても「奄美群島でしか造れない焼酎」です。
なぜ奄美だけが認められているのか。
なぜ“黒糖”という甘い原料が焼酎になったのか。
その背景には、戦争、統治、貧しさ、そして島の暮らしが深く関わっています。
今回は、昭和期を中心に、黒糖焼酎が誕生していく流れをたどってみます。
目次
奄美は、沖縄ととても近い文化圏だった
奄美諸島は、江戸時代初期まで約350年間、琉球王国の一部でした。
言葉も文化も、生活習慣も、本土より沖縄に近い。
神さまに捧げる酒も、かつては「ミキ」「ミシャク」と呼ばれる口噛み酒。
米のでんぷんを唾液で糖化させ、わずかに発酵させた、甘酒に近い酒でした。
のちにサツマイモが伝わると、
煮芋や生芋のしぼり汁を加えた“黄色いミキ”も作られるようになります。
奄美でサツマイモが特別だったのは、
米よりもはるかに身近な命綱だったからです。
奄美にはこんな言葉があります。
「米の隣には居らゆしが、甘藷の隣には居ららん」
米を食べているのを見ても我慢できる。
でも芋を見たら、欲しくてたまらなくなる。
それほど、当時の奄美にとってサツマイモは切実な存在でした。
砂糖黍は“焼酎に使うどころではない”ほど貴重だった
奄美でサトウキビ栽培が本格化したのは17世紀末以降。
薩摩藩の重要な財源となり、島には過酷な黒糖年貢が課せられました。
一人あたり年間120kgもの黒糖を納めさせられた時代もあり、
黒糖は「飲むもの」ではなく、「生きるために搾り取られるもの」。
この時代、黒糖を焼酎に使う余裕などなかったのです。
それでも島では、焼酎は造られていた
一方で薩摩藩は、島民の酒造り自体は禁止していませんでした。
19世紀中頃、大島に流刑となった名越左源太の記録には、
米を中心にした焼酎造りの様子が残されています。
内容を見ると、泡盛とも薩摩焼酎ともつかない、
かなり水を多く使った“米焼酎”に近い酒だったようです。
ここからもわかるのは、
👉 焼酎は日常の酒だった
👉 サツマイモも黒糖も、まず食べ物だった
ということです。
黒糖が焼酎になったのは、戦争がきっかけだった
黒糖焼酎が生まれる決定的な転機は、太平洋戦争末期です。
制海権・制空権を失い、奄美は孤立。
黒糖はあっても、米も食料も入ってこない。
この時、日本軍が鉄兜式蒸留器で島民に酒造りを指導します。
戦後、米軍統治下に入ってからも密造酒は広まり、島外に出せない黒糖が、焼酎の原料として使われ始めたのです。
黒糖は、簡単な設備でも糖液が作れる。
島の暮らしの中で、現実的な原料でした。
「奄美だけ」黒糖焼酎が認められた理由
酒税法上、黒糖を使った蒸留酒は「ラム」に分類されます。
本来、日本で「焼酎」とは認められません。
しかし昭和28年、奄美諸島が日本に復帰した際、
戦中・戦後の製造実績が考慮され、奄美に限って黒糖焼酎が正式に認可されました。
ここが、いまにつながる最大のポイントです。
沖縄でも黒糖酒は造られていましたが、
復帰時に例外扱いされなかったため、現在も黒糖焼酎は「奄美限定」なのです。
昭和の奄美で、黒糖焼酎はこうして造られていた
奄美の黒糖焼酎は、「黒糖+米麹」という、世界的にも珍しい造りです。
収穫されたサトウキビは圧搾され、糖水に。
煮詰め、石灰で中和し、冷やして固めると黒糖になります。
その黒糖を砕いて溶かし、一次もろみに加えて発酵。
蒸留すると、黒糖焼酎が生まれます。
かつては新糖の甘い香りを嫌い、白カビを生やして香りを落とした黒糖を使う蔵もありました。
いまは逆に、新糖由来の華やかな香りが黒糖焼酎の魅力になっています。
黒糖焼酎は、昭和に“産業”になった
奄美で商品としての焼酎造りが始まったのは大正5年。
本格的に広がるのは昭和に入ってからです。
喜界島の朝日酒造、沖永良部島の沖酒造など、
沖縄出身の杜氏を招いた蔵が次々と誕生しました。
現在、奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島、この5島で黒糖焼酎は造られています。
黒糖焼酎は、奄美の戦後史そのものが液体になった酒とも言えます。
黒糖焼酎は「甘い酒」ではなく、「生き方の酒」
黒糖焼酎は、最初から“おいしさ”を目指して生まれた酒ではありません。
生きるために生まれ、暮らしの中で磨かれてきた酒です。
戦争。孤立。貧しさ。密造。復帰。制度化。
その全部をくぐり抜けて、いまの一杯があります。
もし黒糖焼酎を飲む機会があったら、「これは、昭和の奄美から続いている酒なんだ」。
そんなことを思い出してもらえたら嬉しいです。
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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