
【産地呼称焼酎⓷】アジアとの交流が育んだ、日本最古級の蒸留酒
焼酎の魅力に触れるほど、「もっと深く知りたい」と感じる瞬間が増えてきます。
それは、造りの違いであったり、原料の個性であったり、あるいは、その一杯が生まれた土地の風土や歴史かもしれません。
そうした知的好奇心に応えてくれる存在が、産地呼称焼酎。
産地呼称焼酎とは、日本の法律(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律)により、
「壱岐焼酎」「球磨焼酎」「琉球泡盛」「薩摩焼酎」の4つにのみ、その名称使用が認められている焼酎のことをいいます。
それぞれ、
・壱岐焼酎:長崎県壱岐市
・球磨焼酎:熊本県人吉市・球磨郡
・琉球泡盛:沖縄県
・薩摩焼酎:鹿児島県(奄美地方を除く)
と、産地が厳密に限定されています。
さらに特筆すべきは、原材料と製法まで細かく定められている点です。
壱岐焼酎は麦、球磨焼酎は米、薩摩焼酎は芋。
そして琉球泡盛は、主にタイ米を原料とし、黒麹菌のみを用いて造られる蒸留酒です。
簡潔にいえば、産地呼称焼酎とは「特定の地域で、定められた原材料と製法によって造られる単式蒸留焼酎」だと定義できます。
この考え方は、フランスのシャンパーニュやボルドーを思い起こさせます。
実際、産地呼称焼酎はWTO(世界貿易機関)のTRIPS協定に基づく「地理的表示(GI)」の保護を受けており、1995年の制度整備を機に、日本でも正式に守られる存在となりました。
地理的表示とは、商品の品質や評価が、その土地の自然条件や歴史と深く結びついている場合に認められる表示です。
つまり、琉球泡盛は「沖縄でなければ生まれ得ない酒」として、国際的にも位置づけられているのです。
この制度によって、産地呼称焼酎は日本国内にとどまらず、WTO加盟国においても名称と価値が保護されることに。
将来、世界のバーやレストランで「アワモリ」という言葉が自然に交わされる日が来ても、不思議ではないのです。
では、なぜ沖縄が、産地呼称焼酎のひとつとして選ばれたのでしょうか。
それは単に泡盛造りが盛んだからではありません。
蒸留酒が日本へ伝わったとされる複数のルート――
なかでも琉球経路説の中心に位置するのが、この地だったからです。
アジアとの交流のなかで育まれ、600年以上の歴史を重ねてきた琉球泡盛。
この記事では、その独自の成り立ちと、沖縄の風土が生んだ造りの本質に迫っていきます。
目次
琉球泡盛とは|アジアとの交流が育んだ、日本最古級の蒸留酒
沖縄の青い海の彼方には、「ニライカナイ」と呼ばれる理想郷があると古くから信じられてきました。
海は、ただ人々の想像力をかき立てただけではない。交易の要衝であった琉球には、シルクロードを越え、蒸留酒の技術そのものが海からもたらされたと考えられています。
西洋では「命の水(アクア・ヴィテ)」と呼ばれた蒸留酒。
それが東アジアの島嶼文化と出会い、独自の進化を遂げたもの――それが琉球泡盛です。
琉球王国と泡盛の誕生|アジア交流が生んだ酒
明治期に廃止されるまで、沖縄は「琉球王国」という独立国家でした。
中国、東南アジア諸国との距離が近く、古くから冊封体制や交易を通じて深い関係を築いてきた地域だったのです。
泡盛の起源については、
・タイを中心とする東南アジアルート
・中国・福建省からのルート
この2つが複合的に交わったとする説が、現在では有力とされています。
焼酎伝来の経路のひとつである「琉球経路説」は、こうした歴史的背景に裏打ちされたものなのです。
文献をひもとくと、泡盛は15世紀末、琉球王朝の時代にはすでに造られていたとされ、600年以上の歴史をもつ蒸留酒であることがわかります。
黒麹が生んだ必然の製法|沖縄の風土と泡盛
琉球泡盛の最大の特徴は、黒麹菌のみを使用する点です。
沖縄は年間を通じて温暖で湿潤な気候にあり、発酵に必要な菌だけでなく、雑菌も繁殖しやすい環境。
そこで重要な役割を果たすのが黒麹菌なのです。
黒麹菌は発酵過程で大量のクエン酸を生成し、醪(もろみ)の酸度を高めることで雑菌の繁殖を抑制します。
まさに、沖縄の風土に最適化された麹菌といえる存在なのです。
また、多くの泡盛蔵が使用するタイ米(インディカ米)は、黒麹菌が菌糸を伸ばしやすい特性を持つとされ、原料選びにおいても理にかなっています。
全麹仕込みという個性|泡盛が「難しい酒」といわれる理由
泡盛は、麹と水、そして酵母だけで仕込む全麹仕込みという製法を採ります。
これは、他の多くの焼酎が行う「二次仕込み(麹+主原料)」とは大きく異なる点。
工程としてはシンプルに見えますが、誤魔化しがきかない分、造り手の技量がダイレクトに味に表れるのです。
このため、泡盛は「シンプルゆえに難しい酒」ともいわれてきました。
こうした伝統技術の積み重ねにより、
沖縄産の黒麹米麹・泡盛酵母・単式蒸留・沖縄県内での製造
という条件を満たしたものが、1995年に産地呼称焼酎「琉球泡盛」として正式に認められたのでした。
古酒(クース)と日常酒|泡盛の二つの楽しみ方
泡盛といえば「古酒(クース)」を思い浮かべる人も多いと思います。
長期熟成によって生まれる、まろやかで奥深い味わいは泡盛ならではの魅力。
一方で、泡盛は決して特別な日の酒だけではありません。
ロック、水割り、ソーダ割りと、どんな飲み方でも個性を失わず、万能な食中酒として日常に寄り添ってくれます。
なお、古酒を選ぶ際に注意したいのが、2004年6月以降の表示ルール。
現在、年数が明記されている泡盛は、全量がその年数熟成された原酒を意味します。
伝統的な「仕次ぎ」による古酒は、ブレンド比率が裏ラベルに表示される仕組みとなっているため、好みに応じてラベル表示を確認しながら選びたいものです。
まとめ|琉球泡盛が語りかけてくるもの
琉球泡盛は、単なる焼酎の一種ではありません。
それは、沖縄という土地が育んできた歴史、気候、そしてアジアとの交流の記憶を、そのまま封じ込めた蒸留酒であるのです。
黒麹菌のみを用いた全麹仕込み、タイ米という原料の選択、温暖湿潤な風土に適応するための知恵。
その一つひとつが必然として積み重なり、他のどの焼酎とも異なる泡盛の個性を形づくってきました。
だからこそ琉球泡盛は、「沖縄でなければ生まれ得ない酒」として、産地呼称焼酎に認められているのです。
古酒としてゆっくり熟成の時を楽しむもよし、日常酒としてロックや水割り、ソーダ割りで食事に寄り添わせるもよし。
どんな飲み方でも、泡盛はその芯の強さと奥行きを失いません。
産地呼称焼酎とは、土地と酒の関係性を知るための入り口でもあります。
琉球泡盛を知ることは、沖縄の歴史と文化を知ることにほかならなりません。
次に泡盛のラベルを手に取るときは、その一杯の向こう側に広がる海と、遥かな交易の記憶にも、ぜひ思いを巡らせてみてください。
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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