
黒糖焼酎を支える原材料「黒糖」とは何か
黒糖焼酎は、奄美群島だけで造られている、日本でもきわめて特異な蒸留酒です。
その最大の特徴は、原材料に黒糖(さとうきびを原料とする砂糖)を用いる点にあります。
加工食品である黒糖を酒の主原料とする蒸留酒は、世界的にも例がなく、黒糖焼酎は唯一無二の存在といえます。
今回は、黒糖焼酎を支える原材料である黒糖についてご紹介します。
占領下に生まれた密造酒と黒糖の酒
第二次世界大戦後、アメリカ軍による占領直後の沖縄では、酒類の製造が禁止されていました。
そのため、人々は軍から放出されたチョコレートやジャム、ジュースの素などを水に溶かし、糖分を発酵させて蒸留する密造酒を造っていました。
これらは「占領下沖縄のラム酒」として知られています。
やがて社会が落ち着くと、沖縄特産のさとうきびから造られる黒糖を原料にした焼酎が試みられました。
しかし、酒造りが認められるようになると泡盛造りが復活して、流通するようになります。
沖縄本島では黒糖焼酎は定着せず、泡盛が主流で現在では、姿を消しました。
一方、沖縄の北東に位置する奄美群島では、黒糖焼酎の文化が今日まで受け継がれることとなります。
奄美群島と黒糖焼酎の必然的な関係
奄美群島は歴史的に琉球文化圏に属していましたが、江戸時代初期に島津藩の支配下に入り、明治以降は鹿児島県に編入されました。
第二次世界大戦後は沖縄とともに日本から切り離され、アメリカの直接軍政下に置かれます。
戦時中から戦後にかけて、奄美では鹿児島からのいも焼酎、沖縄からの泡盛、さらには原料となるさつまいもの供給も断たれました。
お酒を外部に依存していた奄美群島の人々は、自給のために密造酒を造らざるを得なくなります。
当初はソテツの実や椎の実などが使われました。
やがて、軍政下で奄美特産の黒糖が島外に出せなくなると、行き場を失った黒糖を原料に焼酎が造られるようになります。
これが、現在につながる黒糖焼酎の原型です。
酒造りが公認されると、密造は次第に姿を消し、黒糖焼酎は正式な産業として確立していくこととなります。
江戸時代から存在した「砂糖の酒」
黒糖焼酎は、戦後に偶然生まれた酒ではありません。
江戸時代後期の文政年間(1818~1830年)には、江戸の町で「琉球砂糖酒」「砂糖泡盛」「砂糖焼酎」と呼ばれる酒がすでに販売されていました。
詳細な製法は不明ですが、価格差などから、黒糖を原料とした蒸留酒であった可能性が高いと考えられています。
現在でも、米麹を通常より多く使う「泡盛式」と呼ばれる黒糖焼酎の造り方が存在しており、こうした歴史的背景との連続性を感じさせます。
黒糖とは何か──酒の原料としての特異性
黒糖は、さとうきびの搾り汁を煮詰め、石灰で中和して固めた第一次加工品です。
さとうきびの搾り汁は弱い酸性で、たんぱく質が保護コロイドとして働くため、単に煮詰めるだけでは固形化せず、糖蜜になります。
そこに石灰を加えることで黒糖が生まれます。
このような加工食品を酒の原料にする例は、世界でも奄美群島の黒糖焼酎だけなのです。
よく比較されるラム酒は、黒糖そのものではなく、さとうきびの搾り汁や、粗糖製造の副産物である糖蜜を原料としています。
ラム酒との決定的な違い
黒糖焼酎とラム酒は、ともにさとうきび由来という点では共通しますが、製法と味わいは大きく異なります。
ラム酒は専用の蒸留器や連続式蒸留機で造られ、高度数の原酒を加水・熟成するのが一般的です。
一方、黒糖焼酎は単式蒸留器を用い、さらに米麹を使って発酵させるという、日本独自の技法を採ります。
黒糖はすでに糖分であるため、それ自体で糖化が可能です。
本来は、糖化を促す材料である麹を必要としませんが、米麹は糖化剤ではなく、風味を与えるために使われます。
麹由来の酸や旨味成分が加わることで、黒糖焼酎はラムよりも穏やかで、すっきりとした味わいになります。
酒税法でも、黒糖焼酎には黒糖のほかに麹が必要であると明記されています。
奄美群島で受け継がれる黒糖焼酎文化
現在、奄美群島でも多くの黒糖焼酎が造られています。
レギュラー酒は、アルコール度数30度ですが、与論島では25度が主流です。
水や燃料が乏しい島では、無理なく飲める度数が選ばれてきたともいわれています。
黒糖焼酎は、奄美の自然、歴史、そして黒糖という特別な原材料が結びついて生まれたお酒。
その一杯には、甘味の奥に、島の歩んできた厳しくも豊かな歴史が静かに息づいています。
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SHOCHU PRESS編集部
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