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【黒糖焼酎】まーらん舟 | 富田酒造(鹿児島県奄美市)の画像

【黒糖焼酎】まーらん舟 | 富田酒造場(鹿児島県奄美市)

2022-06-21

富田酒造場の焼酎造り

富田酒造場は、鹿児島県奄美大島の黒糖焼酎を作る焼酎蔵です。奄美大島には10蔵の焼酎酒蔵がありますが、その中で最も小さい蔵。4代目・当主である富田真行氏に率いられた小規模経営で作られる黒糖焼酎は、黒糖本来の甘い香りと味わいが楽しめると全国的に人気です。

富田酒造場が創業したのは、奄美大島が本土に復帰する2年前の1951年(昭和26年)。徳之島出身の初代が財産を売り払い、現在の地に焼酎酒蔵を築いたといいます。蔵元では、焼酎造りで最も重要なことは「造り手の面倒見」だといいます。原料の出来や気候に左右されることがあっても、一定のクオリティを保つために、蔵人が一丸となって麹や醪、貯蔵中の原酒を見守っているのです。

富田酒造場の焼酎造りの画像

蔵元の仕込み水

奄美大島は、九州南方海上の鹿児島市と沖縄本島のほぼ中間に位置する、奄美群島の主要な島です。2021年に奄美群島に属する徳之島とともに 「世界自然遺産」に登録。雄大な自然は、日本国内にとどまらず世界からも注目されています。

奄美大島の山々の中でも、亜熱帯広葉樹が広がる金作原(きんさくばる)は、国指定天然記念物のルリカケスやキノボリトカゲなど稀少な生物も生息する有名なエリア。原生のまま多く残る手付かずの自然は、清冽な水も育むには最適な環境。蔵元で使用される仕込み水は、大自然の恩恵をふんだんに含んだ金作原の水を使用しています。

蔵元の仕込み水の画像

サトウキビの歴史

奄美にサトウキビ栽培と砂糖製造法が伝来したのは、1609年(慶長14年)。初めて黒糖が生産されたのは、1610年であるといわれています。しばらくの間は製糖技術が発達することはなく、島民が自家消費用に作る程度でした。

1700年代になると、薩摩藩の奨励のために製糖が盛んになりはじめます。黒糖が、幕府への大変貴重な献上品とされたからです。藩は島内の自家消費は認めず、全ての黒糖を納めさせました。酒造りをすることを禁じ、黒糖の仕込み期間中は、焼酎の蒸留器を封印したほどの徹底ぶり。そのため、奄美で黒糖が酒造りの原料として自由に使えるようになったのは、明治以降でした。

サトウキビの歴史の画像

沖縄産が主流になった理由

黒糖は、サトウキビの搾り汁を煮詰めて石灰を加え凝固させたもの。糖蜜を含むため「含蜜糖」と呼ばれています。含蜜糖のほかには、「分蜜糖」があり、遠心分離機を使って砂糖の結晶と蜜分とを分離させて作った、いわゆる「お砂糖」が代表格。

奄美では政府の政策により、分蜜糖生産が優先されました。それまで黒糖を主とする含蜜糖を主に生産していましたが、分蜜糖に取って変わったのです。黒糖焼酎の原料も昭和50年頃までは、奄美産が使われていましたが、それ以降は、主に沖縄産の黒糖を使うように。島内の製糖工場がほとんど分蜜糖用の設備になったため、含蜜糖を依頼すると沖縄産に比べてはるかに高価となってしまったのです。

沖縄産が主流になった理由の画像

時代に則した酒質の開発

富田酒造場の創業当時からの代表銘柄である「龍宮」は、沖縄産の黒糖を使用しています。一方、その他の銘柄では、奄美産を使用。それも、銘柄ごとに産地を分けています。「まーらん舟」は徳之島産、「らんかん」と「かめ仕込」は波照間島と多良間島産。それぞれの黒糖の特徴を生かすことによって、個性ある焼酎造りをしているのです。

芋焼酎では、黄金千貫やジョイホワイト、シロユタカなどサツマイモの品種が焼酎の個性に影響を与えているとして注目されています。同様に、麦焼酎や米焼酎もそのようなトレンドが広がっており、黒糖焼酎も注目されるところ。蔵元は小規模ながら、時代に則した酒質の開発に余念がありません。

時代に則した酒質の開発の開発

伝統的なドンブリ仕込みを使った焼酎造り

富田酒造場は、甕を用いた伝統的な「ドンブリ仕込み」で焼酎が造られています。初代から受け継ぎ、今ではこの伝統製法を採っているのは蔵元以外にはありません。
焼酎の仕込み法は、「二次仕込み」が一般的。麹と酵母、水を加える一次仕込みの後、一次仕込みで出来上がった醪(もろみ)と主原料を加えてアルコール発酵を促す仕込み法です。

蔵元のドンブリ仕込みは、麹と酵母、原料である黒糖、水を同じ甕に入れて醪を造ります。一次も二次も同じ甕で行うため醪が落ち着き、静かに発酵するので、やさしい香りが生まれるといいます。ドンブリ仕込みと甕にこだわることで、トロけるような甘みと米麹由来の穀物香が、調和した味わいを引き出しているのでした。

伝統的なドンブリ仕込みを使った焼酎造りの画像

今回、紹介するのは「まーらん舟」

今回、紹介するのは「まーらん舟」です。原料は、徳之島産の「徳南製糖の黒砂糖・純黒糖」。麹の原料は国産米、種麹は黒麹を使用しています。

ネーミングは「馬鑑船」が由来。馬鑑船とは、奄美から沖縄、中国大陸を経て東南アジアまで航海していた貿易船の名前。「幸せを運ぶ舟」という意味合いがあるそうです。ラベルの文字は、3代目・当主の富田恭弘氏の手書きです。代表銘柄「龍宮」以外のラベルも同様。こだわりは、ラベルにも現れています。

黒糖の香りが、それほど強くなくおだやかに立ち上がってきます。香りの奥に青い果物のようなフルーツ香。甘みが強く感じられます。味わいも豊かでふくらみがあります。甕仕込み由来のミネラル香も感じられ、甘さと絡み合います。やや重い酒質ですが、キレもよくドライな仕上がりです。

飲み方は、ロックがオススメです。氷で冷やすと甘みに幅が出て、黒糖焼酎の特徴がよく出ます。また、モヒートなどカクテルのベースとしてもオススメ。ライムなどの果汁と合わせることで、すっきりした甘さが際立つことでしょう。

今回、紹介するのは「まーらん舟」の画像

〈銘柄データ〉

【まーらん舟(まーらんせん)】
富田酒造場/鹿児島県奄美市名瀬入舟町7-8
主原料/黒糖(徳之島産)
麹菌/黒麹(米)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留

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