減圧蒸留と常圧蒸留の違いとは? その味わいから見分け方までをご紹介!
焼酎の蒸留方法は、単式蒸留と連続蒸留の2種類があります。
単式蒸留においては、さらに、「常圧蒸留」と「減圧蒸留」にわかれます。
「常圧蒸留」は伝統的な手法ですが、「減圧蒸留」は比較的近年に開発。
今回はその2種類の蒸留方法の違いについてご紹介します。
目次
常圧蒸留と減圧蒸留の違い
「常圧蒸留」は昔から伝わる伝統的な蒸留方法。
一方、「減圧蒸留」は1970年代に導入された蒸留方法です。
常圧蒸留
常圧蒸留は、通常の大気圧のもとで蒸留する方法。
原料である醪(もろみ)は、90~100℃で加熱されます。
そのため、フーゼル油などの沸点の高い成分も抽出され、原料の持つ風味や香り、雑味が幅広く引き出されることになります。
濃厚な味と柔かな甘い香りが出やすいですが、クセも出やすいのが特徴。
減圧蒸留
減圧蒸留は、真空ポンプを使って蒸留器内の気圧を下げて蒸留する方法。
大気圧の10分の1ぐらいまで下げて、40~50℃ぐらいの低温で蒸留します。
気圧を低くして、沸点を低くするのです。
低温で蒸留するので、フーゼル油などの成分は抽出が僅かで、ほとんどが醪に残ります。
雑味成分があまり抽出されないうちに蒸留が終わるので、マイルドな仕上がりに。
反面、特徴が出づらい。
もう少しわかりやすく
具が入った味噌汁を使って説明しますね。
お家の台所で調理した場合は、味噌汁は大気圧のもとなので、100℃で沸騰しますよね。
鍋の中の具もそれぞれ良い塩梅になり、ネギや油揚げの良い香りも漂います。
一方、登山中の、山の中腹で(マナーを守って)調理した場合は、気圧が低いので味噌汁は、100℃以下で沸騰します。
※富士山の頂上は約87.8℃で沸騰。エベレストは約70℃!
しかし、鍋の中の具は半煮え。
よって、ネギや油揚げの香りはしません。
気圧が違うと、同じように沸騰はしていても香りや味は全く違ったものになるのです。
味わいの違い
前述の通り、「常圧蒸留」は原料由来の香りが強く残ります。
芋焼酎にとっては、この香りが商品の良し悪しとなります。
柔かな甘味,味のよさは前面に出ますが、焦げ臭などのクセが出やすい。
「減圧蒸留」の味わいは、軽く淡麗、ライトさが特徴。
米焼酎や麦焼酎においては長い間、こげ臭が出やすいのが課題でした。
そのこげ臭が、「減圧蒸留」によって解決されたのでした。
本格焼酎ブームの引き金
焼酎ブームは過去に何度も発生します。
1970年代のブームは、減圧蒸留の登場が引き金となります。
大分麦焼酎の隆盛
大分はかつて、清酒造りが盛んなエリアでした。
焼酎専業酒蔵は少なく、ほとんどが清酒メインの兼業蔵。
そんなエリアの焼酎が、全国的なブームを巻き起こします。
引き金は、減圧蒸留。
1973年(昭和48年)に二階堂酒造が、麦焼酎「吉四六」を発売し、1979年(昭和54年)には、三和酒類が麦焼酎「いいちこ」を発売。
この2社は他の大分酒蔵同様、もともとは清酒メインの焼酎兼業蔵でした。
しかし、減圧蒸留によって、それまで麦焼酎の課題とされた麦特有のわら臭、こげ臭を、除去することに成功。
その淡麗さとマイルドさが全国に受け入れられ、空前のブームを巻き起こすのです。
そのインパクトは凄まじく、歴史上初めて焼酎が清酒の売上げを越えることに成功。
それ以前は、南九州の「地酒」であった本格焼酎を、全国レベルまで押し上げたのでした。
減圧蒸留の歴史
ところで、単式蒸留、否、焼酎造りにおいては、常圧蒸留がスタンダードでした。
減圧蒸留の導入は、49年前で、焼酎造り500年の歴史の中では、ごく最近の出来事だったのです。
減圧蒸留を導入したのは、福岡の清酒蔵
減圧蒸留を焼酎の蒸留に導入したのは、株式会社喜多屋(旧名:白花洒造株式会社)です。
1973年(昭和48年)9月のこと。
株式会社喜多屋は福岡の清酒蔵で、いわゆる粕取り焼酎を製造する兼業蔵。
当主はスコットランドのウィスキー、フランスのブランデーなど、世界では蒸留酒は高級品としての評価を受けているのに対し、日本の焼酎はステイタスが低いことに以前から疑問を持っていました。
その後、数々の検証を経て、減圧蒸留を使っての焼酎造りができないか、という結論に至ります。
具体的には、焼酎特有の臭みや、こげ臭は、こうじ由来の種々の成分が蒸留中に熱によって分解し、これが原酒に移行すると仮定。
ならば、減圧下のもと低温で蒸留して、材料の芳香をそのまま製品に移行させることが出来るのではないかと考えたのです。
前述の味噌汁と同じ理屈ですよね。
その後、酒造機械のメーカーの協力もあって、減圧蒸留機が完成。
この時が、減圧蒸留を使ってお酒を造ったのは、日本のみならず、世界でも初めではないか、といわれています。
1974年(昭和49年)には、球磨地方の焼酎酒蔵が採用。
じわじわ減圧蒸留の普及が始まります。
完成に至る背景
では、なぜ急に減圧蒸留が実現されたかをご紹介します。
減圧するには、空気を抜いていき、真空に近いような状態にまで気圧を下げる必要があります。
真空状態にするには、真空ポンプが使用されますが、それには、蒸留機の素材の強度が必須。
かつての蒸留機の素材は、鍋釜や木製がメインでしたが、1970年代ともなると、ステンレス製が普及します。
このステンレス製が減圧蒸留を実現する鍵だったのです。
ステンレス製によって、蒸留機内が完全密閉できるようになり、真空ポンプの使用できるようになります。
そして、真空ポンプが蒸留機中の空気を引き抜いて、減圧蒸留を可能にしたのでした。
常圧蒸留と減圧蒸留のそれぞれの良さ
減圧蒸留が本格焼酎の全国的ブームを巻き起こしますが、それまでの伝統的な常圧蒸留はすたれてしまったのでしょうか。
常圧蒸留の良さ
近年は、減圧蒸留を使った淡麗でクセのない焼酎も一段落。
ブームも落ち着き定着の兆しを見せ、上っていた坂がなだらかになっていきます。
すると、常圧蒸留と減圧蒸留の住み分けが顕著に。
昔ながらの個性的で濃厚な味わいや原料の特性を出すには「常圧蒸留」が選択され、淡麗で香りや飲みやすさを重視したい時には「減圧蒸留」が使われるようにます。
原料別でいうと芋焼酎や泡盛は常圧蒸留が主体で、減圧蒸留は米焼酎や麦焼酎などの穀類焼酎を中心に広く普及します。
減圧蒸留の見直しとは
減圧蒸留にも課題が出てきます。
それは、甲類との差別化ポイント。
焼酎の「雑味」を気にして取り除くことばかりを考えていくと、無味無臭に近いもの=甲類焼酎の風味と近いものになっていくからです。
壱岐焼酎や大分の「兼八」
その流れをうけ、常圧蒸留の良さをアピールして認知を広めた銘柄やエリアがあるのでご紹介します
壱岐焼酎
壱岐焼酎は、「麦焼酎の発祥の地」として、常圧蒸留にこだわります。
関連記事 : 壱岐焼酎は伝統の麦焼酎!特徴と全酒蔵までご紹介します
兼八
大分の麦焼酎ながら、四ツ谷酒造の「兼八」は常圧蒸留と裸麦にこだわります。
関連記事 : 【麦焼酎】兼八(かねはち)/四ッ谷酒造
常圧蒸留と減圧蒸留はどうやって見分ける?
それでは、常圧蒸留と減圧蒸留はどのようにして見分けるのでしょうか?
ラベル
焼酎のラベルには、さまざまな情報の記載があります。
よって、常圧蒸留と減圧蒸留の違いもわかるハズ!と思いがちですが、さにあらず。
ラベルに記載はないのでした。
ネット
常圧蒸留と減圧蒸留の違いは、多くのネット通販では記載があります。
飲みたい焼酎をあらかじめ検索して、常圧蒸留なのか、減圧蒸留なのかを調べましょう
酒販店
酒販店で店員さんに聞くのがベターです。
全く、恥ずかしい質問ではないです。
積極的に聞いてみましょう。
まとめ
いかがでしたか。
原料や仕込みが同じでも、蒸留法を常圧にするか減圧にするかで、できあがりが濃厚にも淡麗にも仕上がるのは、焼酎の奥深さ。
これからは、蒸留方法にも注目して、焼酎選びをしてみてくださいね。
きっと、お気に入りの一本が見つかるハズです。
-参考 「本格焼酎の減圧蒸留について (1)」「日本釀造協會雜誌」宮田章,1986年,81巻 3号
「本格焼酎の減圧蒸留について (2)」「日本釀造協會雜誌」宮田章,1986年,81巻 4号
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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