鹿児島伝統の酒器「黒ぢょか」で焼酎を深く、楽しく!
黒ぢょかとは鹿児島で伝統的に使われている酒器。
そして、黒ぢょかを使った飲み方は、焼酎本来の味わいが深く楽しめるものです。
その特徴と、オススメ黒ぢょかをご紹介します
目次
黒ぢょかとは
黒ぢょかは、鹿児島に伝わる酒器の名前のことです。
漢字では「千代香」が一般的ですが、「茶家」と書くこともあります。
黒ぢょかの歴史
名前の由来は、中国で茶瓶や酒瓶を「ちょか」と呼んでいたのを沖縄経由で伝わったとされます。
ちなみに、沖縄でも酒器の一種を「ちゅうか」と呼んでいます。
ただ、ちょかはその注ぎ口がイノシシの牙に似ていることから猪牙という説もります。
鹿児島では、16世紀の島津義弘が統治した時代から、朝鮮半島出身の陶工の子孫が代々、日常の雑器を作り続けていました。
鉄分が多い薩摩の土を使ったそれらの焼き物は、黒釉薬をかけた見た目から「黒物(くろもん)」と呼ばれ、庶民に古くから親しまれていました。
ちょかというのは土瓶類の総称で、それぞれの使用目的ごとに、煮炊き用の”山ぢょか”、茶器や酒器の”平ぢょか”、”歯黒ぢょか”、”薬ぢょか”がありました。
江戸時代文政年間に出版された書籍に、ちょかの記述があります。
著者が、薩摩(鹿児島)に住んだことのある人物から聞いた話として登場します。
「茶わんに添え客人銘々に出す土瓶をチョカといい、茶家と書く」
-引用 : 松浦静山 (著),中村幸彦(編),中野三敏(編),「甲子夜話」 東洋文庫,1977年4月
黒ぢょかで飲むということ
鹿児島の気候は温暖で、清酒造りには適しません。
具体的には、日本酒造りに必要な黄麹が育ちにくい環境なのです。
日本酒にかわって、鹿児島では古くから親しまれてきたのが焼酎。
そして、黒ぢょかは、その焼酎を飲むための酒器として使われてきました。
ところで、古くから日本において、お酒を飲むとはつまり、お燗で飲むこととイコールでした。
冷やしてお酒を飲むことはありましたが、各人の好みや季節によって使い分けていたようです。
では、お燗をして飲むというのは、いつ始まった習慣なのでしょうか。
お燗の歴史をご紹介したいと思います。
お燗の歴史
延喜式が成立した平安中期(927年)には、すでに後世の燗鍋に相当する器があり、お酒を温めていたことが知られています。
江戸時代後期の天保年間に、山崎美成という随筆家の著書「三養雑記」(1840年刊)と、天野政徳という国学者の著書「天野政徳随筆」(1848年刊)にそれを裏付ける記述があります。
一年中お燗をするようになったのは、十六世紀後半の安土・桃山時代から。
1585年にポルトガル人宜教師ルイス・フロイスが、当時の日本人のお酒の飲み方を著書の中で紹介しています。
「われらにおいては、葡萄酒を冷やす。日本ではそれを飲むには、ほぼ一年中温める」
-引用 松田毅一 E.ヨリックセン著,「フロイスの日本覚書」,中央公論社 (1983)
鹿児島では
焼酎がメインであった鹿児島でも、ホットでお酒を飲むのが一般的であったことは想像に難くないです。
そして、お燗の方法には、
・熱源と容器を直にして温める「直燗」
・湯煎で温める「湯燗」
の2つの方法があります。
湯燗だとお湯の塩梅などを気にする必要があり、給仕係の助けが不可欠ですが、直燗だと、自身で給仕が可能です。
また、当時の熱源は囲炉裏の火。
直燗の場合は、囲炉裏に酒器を自在カギにかけ、直火から燗をつけていました。
ただ、そのまま直火からの加熱は温度も急激に上がり、アルコールの辛さが際立ちます。
沸きたったお酒は、美味しそうではありませんよね。
なので、灰の中でゆっくりと温めていたそうです。
黒ぢょかはこのようにして、古くからお燗をするための酒器として、鹿児島で使われてきたのでした。
ちなみに、、灰の中でゆっくりと温める熱灰用の酒器は鹿児島特有のものではなく、富山には「ハイドックリ」、石川には「イブリカン」とよばれるものがありました。
現代において
このように酒は長い間、お燗をして飲むのが一般的で、中でも鹿児島においては、黒ぢょかは欠かせない酒器だったのです。
現代の焼酎の造り手の方の中にも、そのように思い続けている人も多いようです。
プレミアム焼酎「萬膳」で有名な万膳酒造の万膳利弘さんのインタビューを紹介します。
以前、万膳さんにどんな焼酎を造りたいかと尋ねたら、「はじめは燗して飲んでおいしく、冷めても辛みがたたずまろやかでおいしい酒を」と答えた。おそらく彼の原風景は黒瀬杜氏たちのふるさとの宴。酒宴のなかば、ふと気づくと酒はすっかり冷めている。さあもう一杯と飲み千す時に「ああ、うまい」と思わずうなる。そんな酒を造りたいと言ったのだ。
-引用 : 「黒瀬杜氏の精華を受け継ぐ」「焼酎楽園」,p17, 2001年6月,金羊社
黒ぢょかの楽しみ方
黒ぢょかは、古くからお燗をする酒器として普及してきたワケですが、現代ではどうでしょう。
囲炉裏がある家庭は見かけなくなったので、熱灰で燗をすることは難しそうです。
オススメの黒ぢょかをご紹介
ただ、地元では「そろばん」というあだ名もある、見た目にも特徴的な黒ぢょか。
風情ある酒器として、焼酎を深く楽しむ上で、ぜひ使ってみたいものです。
いくつかのメーカーが販売していますが、特にオススメの2社をご紹介したいと思います。
黒茶家/沈壽官窯
16世紀に薩摩藩主の島津義弘が、朝鮮半島から陶工を連れ帰ったのが薩摩焼の始まりといわれています。
その薩摩藩から武家屋敷を与えられ、御用窯を務めたのがこちらの沈家。
現当主の壽官氏は15代目になります。
まさに、生きた名工の技術で作られる逸品。
大切な一本を味わうのにオススメの黒ぢょかです。
沈壽官窯 公式HP : http://www.chin-jukan.co.jp
居酒屋物語り 黒じょか/イチヤマ
美濃焼で有名な岐阜県土岐市のメーカー。
美濃焼は、伝統と技を受継ぎ多種多様な陶磁器を生産。
その生産数は国内市場の50%を占めるまでに。
普段使いの黒ぢょかとしてお使いください。
販売:ヨドバシカメラ 公式HP
黒ぢょかの飲み方
黒ぢょかの飲み方は、他とは違う差別化ポイントがいつくかあります。
ここを押さえると、さらに黒ぢょかの魅力が広がります。
前割り
「前割り」とは、名前のとおり、あらかじめ焼酎を水で割り、しばらく寝かせてから飲む方法。
その場で割る水割りに比べ、焼酎と水がなじむため、焼酎の口あたりがまろやかになり、芋焼酎の本当のよさが味わえるといわれます。
ひと晩が目安。
ただ、1週間まで寝かせて味わいの違いを確かめるのもオススメです。
比率はロクヨン
本格焼酎のほとんどはアルコール度数が25度なので、水と焼酎の比率をロクヨンにすると、日本酒と同じ15度に。
日本酒造りに適してなかった、鹿児島ならではの知恵と言えるかもしれません。
温度
温めすぎは禁物。
ぬる燗にすることが、おいしさを左右する大きなポイントです。
熱燗と言われる45度〜60度ではなく、35度〜40度の人肌燗がオススメ。
また、火が強すぎると黒ぢょかにひびが入ってしまうこともあるので要注意。
網を乗せて
前述の通り、直接火にかけて急激に熱すると焼酎の風味が飛んでしまうので、綱などにのせて遠火の弱火でゆっくりと温めてお楽しみください。
まとめ
いかがでしたか。
素敵な酒器との出会いは、焼酎との付き合い方が変わるキッカケになると思います。
皆さんもぜひ、伝統的な酒器である黒ぢょかで焼酎をいつもより、深く、楽しく味わってください。
-参考 : 田中利雄「酒の燗と器の変遷」, 「日本釀造協會雜誌」,1987,第82巻 第3号
-参考 : 奥田教廣「燗酒」, 「日本釀造協會雜誌」,第75巻 第8号
-参考 : 鹿児島本格焼酎技術研究会,鹿児島の本格焼酎,春苑堂出版,平成12年P154-156
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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