【芋焼酎】野海棠(のかいどう)/祁答院蒸留所(鹿児島県薩摩川内市)
ストーリーは甑島から
甑(こしき)島は東シナ海に浮かぶ、美しい海と断崖絶壁の島を持つ、国定公園にも指定された風光明媚な島。
薩摩半島から約30キロ隔てており、縦に上甑島・中甑島・下甑島の3つの有人島と、多数の小規模な無人島で構成されています。
鹿児島県の島なので、昔から焼酎造りは盛ん。
有人島の一つである下甑島では、明治後期から地域の人たちが組合を設立して焼酎造りをしていました。
明治32年に自家製造は禁止されますから、組合で造っていたワケです。
昭和中期になると、組合員のひとりだった西行法氏が「西酒造場」を創業。
以降は、地域の人のための焼酎「青潮」は西酒造場が造り続けることになります。
そして、近年。
多くの老舗企業同様に、西酒造も事業承継の問題に直面。
新たな焼酎造りを画策していた古谷芳高氏が、引受先になることに。
平成19年10月、鹿児島県本土の薩摩川市内祁答院町蘭牟田に(株)祁答院蒸留所を設立。
製造免許も下甑島から移転し、「青潮」のブランドは守られることになります。
祁答院(けどういん)エリア
祁答院蒸留所がある薩摩川内市は、鹿児島県の北西、県内最大の面積を有する北薩地区の中心都市。
その中の祁答院エリアは、藺牟田(いむた)池や藺牟田(いむた)温泉など、自然や観光資源に恵まれ、森と湖と温泉のまちとして、多くの観光客が訪れます。
特に、藺牟田池は観光の目玉。
周囲約3.3kmのほぼ円形をした池で、飯盛山や愛宕岳などなだらかな7つの外輪山に囲まれた火口湖。
湖面の標高は海抜295mあり、深さは3.5mほど。
水面に浮かび上がっている浮島が、とっても有名。
浮島というのは、自生した植物が枯れて堆積し、長い時間をかけて炭化して泥炭を形成し、水面に浮かび上がったもの。
藺牟田池にはいくつもの浮島が点在して、「泥炭形成植物群落」として天然記念物に指定されて保護されています。
また、この池は絶滅危惧希少野生動物のベッコウトンボの生息保護地区として知られています。
祁答院蒸留所
前述の通り、古谷芳高氏が「青潮」を承継したのですが、注目ポイントは2つ。
1つ目は、製造所の移転を藺牟田県立自然公園内に選んだこと。
深い緑と豊富な湧水、綺麗な空気。
春にはお花見、秋には紅葉が楽しめる豊かな気候は、焼酎造りには最高の条件といえます。
2つ目は、「昔ながらの技術」にこだわったこと。
そのため、黒瀬杜氏の名工である黒瀬明氏を迎え入れます。
手造りで製麴はもちろん、一次仕込みは甕仕込み、二次仕込みは木桶仕込み、蒸留には昔ながらの木樽蒸留を使用。
そして、貯蔵は温度が一定に保たれ焼酎の風味が安定する、洞窟貯蔵。
全ての製造工程にこだわりが見られます。
特に、二次仕込みに木桶を使っているのは、日本で祁答院蒸留所のみといわれています。
木桶は、甕や、ステンレスタンクと違い、素材が自然の木であるため、外気温の変化がモロミに伝わりにくい。
最後まで穏やかに発酵し、丸みのある焼酎に仕上がるのが特徴、といわれています。
今回の銘柄は「野海棠(のかいどう)」
今回紹介する銘柄は「野海棠(のかいどう)」です。
名前の由来は、世界中で唯一、霧島だけに咲く花から。
リンゴの花とサクラの花をあわせたような、清楚で可憐な美しい花で、大正12年には国の天然記念物に指定されています。
祁答院蒸留所が製造する焼酎ブランドは、この「野海棠」と、西酒造場から承継した「青潮」、「日は昇る」、「木々の目覚め」があります。
「野海棠」と「日は昇る」では芋焼酎だけでなく、麦焼酎も造っています。
また、紅芋の一種である、綾紫(あやむらさき)で新商品を発売するなど、商品開発に余念がありません。
飲み方はロックがオススメです。
まずは、木桶仕込み、木樽蒸留由来の木の香りが鼻腔をくすぐります。
樽貯蔵熟成の香り「樽香」とは一味違い、蜂蜜のような、成熟したまろやかさがあります。
「樽香」は蒸留後につけられ香りですが、蒸留とともに付いた木の香りはなんとも懐の深さを感じさせてくれます。
口に含むと、ふんわりとしたコガネセンガンの白い花の香りとすっきりとした甘み。
黒麹由来の鉄分を感じる心地よい苦味。
余韻はクリアですっきりしています
料理は、鶏肉のトマト煮込みなどの酸味のある肉料理が合いそうです。
〈銘柄データ〉
【野海棠(のかいどう)】
祁答院蒸留所/鹿児島県薩摩川内市祁答院藺牟田2728番1
主原料/芋(黄金千貫)
麹菌/黒麹(米)
度数/25度
蒸留/常圧蒸留
この記事を書いた人
SHOCHU PRESS編集部
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